こうして、自分で目標を設定し自分の限界に挑み続けるこの時期には、子どもたちの着実な成長が伝わってくるエピソードが多い。例えば、先生と親との間で交わす「れんらくちょう」には以下のような内容が記されている。
「今日、前かけ足が6回くらいだけど跳べたよ」とうれしそうに言っていました。「ねぇ、ねぇ、なわとびが跳べるようになってどんな気持ち?」と聞いたら「これ以上ないっていうくらい、うれしかった」と答えました。その答えを聞いて、玄貴の喜びがすごく伝わってきました。ふと思ったのです。すごく的確な表現だったなぁと。気持ちって抽象的で表現するのがとても難しいのですが、その表現方法が今回、すごく的確だったように思います。(親バカですが・・・)なわとびの方もそうですが、言葉で表現するという点においても成長したなぁと感心してしまいました。
風2組 「れんらくちょう」より
さらに、この家庭では、こんなエピソードもあった。父親が彼と弟のために2冊の本の買ってきたところ、案の定、わかりやすい本の取り合いになった。そこで、母親が
「できないことをやって、できるようになるとうれしいものなんだけどな」
と声をかけると、彼はその本から手を離し、
「お兄ちゃんはなわとびがなかなかできなかったけど、できてすごくうれしかった。だからこっちがいい!」
と言って、自らは難しい本をとり、弟にやさしい本を譲ったという。
大人たちがまず手本を示す
話は少々横道にそれるが、この密着レポート第1回「一人の女性が創った奇跡の幼稚園」で、風の谷幼稚園の設立の経緯を紹介した。天野園長は大人の都合がまかり通る現在の幼児教育に危機感を感じ、「論を発するだけでは何も変わらない。自分で理想の幼稚園を創る」と目標を設定し、行動し、実現した。
この目標が「手の届く目標」かと言われれば、いささか無謀な気もするが、幼稚園を創るという目標は達成した。しかし、彼女の目標設定はこれにとどまらない。例えば「子どもたちのために自然の遊び場をつくる」という目標を設定し、休日返上で雑木林の開墾に挑んだ。その結果できたのが、子どもたちにとって最高の遊び場である「えのき広場」だ。
そして、常に最善の幼児教育を目指す姿勢は変わることなく、日々、大なり小なりの新たな目標を設定し、それをクリアしていくことを自らに課し、先生たちにも求めている。