2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年6月9日

 菅首相の誕生に対して、中国メディアも高い関心を示した。6月4日付の国際問題専門紙・環球時報は「菅氏は中国との友好を訴え、(母校・東京工業大学の)中国人留学生の春節(旧正月)行事にも10年以上連続で参加している」と紹介したのに続いて、同じ環球時報の電子版は記事を掲載して、菅首相のことを「史上最も革新的な首相」だと絶賛した上で、「(菅首相の下では)日中関係のさらなる強化につながる」と期待感を示した。

 中国の日本問題専門家たちも一概に、菅首相の誕生を歓迎する論調である。中国網日本語版(チャイナネット)は6月5日に伝えたところによると、前出の清華大学の劉江永教授は「日中関係の問題で菅直人氏は鳩山由紀夫内閣の方針を引き継ぎ、日中関係において非常に重要な役割を果たしていくだろう」との見解を示した。

菅首相が称賛される2つの理由

 その中で劉教授はとりわけ、菅直人氏は従来より「台湾独立」への反対を明言していることと、日本の「対中侵略」を認めてこれについて謝るべきだと述べたことを取り上げた。この2点を根拠にして、彼は菅首相のことを「中国の立場を良く理解し中国と歴史認識を共有している日本政治家」として賞賛しているのである。

 6月4日という同じ日に、劉教授は自らのブログにおいても「菅直人氏は中国の古い友人」と題する論評を発表したが、その中で次のようなことを述べている。

 「6月3日、菅首相は、日中関係の発展を重要視すると発言した。日本の未来にとっては正しい選択であり、新首相が日中関係に新たな活力を注入してくれると期待している。菅首相は日本の親中派閥。平和的な発展を提唱し、正しい歴史認識も持っている。日本首相の靖国参拝に反対し、アジア諸国との友好的な協力関係の構築を提唱してきた。日米関係と同時に、中国との協力関係深化も重視している。私たちは菅政権の間に日中関係がさらに緊密化することを望んでいる」

問われる菅政権の対中政策

 このように、菅直人首相の誕生を受け、中国の政府とオピリオンリーダーの専門家たちはいっせい「熱烈歓迎」の姿勢を示し、外国の指導者にたいしては異例とも言うべき大賛辞を捧げているのである。その代わりに、総理大臣を辞めたばかりの、もう一人の「古い友人」であるはずの鳩山由紀夫氏のことがもう過去の人の如く、とっくに忘れ去られたようである。

 もちろん、まさしく前出の劉教授が指摘したように、菅直人氏は従来より、「台湾問題」と「歴史認識問題」という二つの中国にとっての「重大問題」に関して、まったく中国の国益に沿ったような中国寄りの立場を取っていることは、彼が中国によって大歓迎された最大の理由であることは明々白々である。

 だとすれば、中国側の思惑とは違った日本の立場からしては、これからの菅政権の対中政策の展開は、鳩山政権以上に、日本の国益よりもむしろ中国の国益に大いに適うような外交になるのではないかと憂慮しなければならないところだが、菅政権が樹立直後に行った最初の対中外交の施策を見れば、これはけっして杞憂でないように思える。

 菅首相は就任早々、ある経済人を中国大使に任命する方針を固めたそうだ。経済人はえてして、中国を重要マーケットとして見る向きがあるのも事実。中国側の主張に引きずられ、冷静な日中関係が構築できないという事態を招かないか、菅政権の手腕が問われている。

※次回の更新は、6月16日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。


新着記事

»もっと見る