2026年2月5日(木)

家庭医の日常

2026年2月5日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。  
(sommaiphoto/gettyimages)

<本日の患者>
S.B.さん、67歳、女性、大学院特任教授(美術史学)。

「先生、この前の新聞見ましたか? 英国の医療に6割の人が不満なんですって。産婦人科にも問題があるって。留学してるT.B.のことが心配です」

「ああ、NHS(国民保健サービス)ですね。その記事は私も読みました。背景にある事実でちょっとわからないところがあったので、調べていたところです」

「で、どうだったんですか? 教えて下さい」

 S.B.さんは、大学院で美術史学の研究と教育をしてきた教授で、2年前に定年を迎えた後も特任教授として研究を続けている。次女のT.B.さんはギリシャ語やラテン語などの古典語の研究者で、英国の大学院の博士課程で学ぶために、昨年から夫と子供2人の一家で留学しているのだ。

 S.B.さん自身は、6年前に乳がんの治療をして、脂質異常症と骨粗鬆症もあって、私が働いている家庭医診療所を定期受診している。今日もその定期受診に来ていて、診察中に上記の会話になったのだ。

医療への国民の不満

 話題の記事は、日本経済新聞に掲載されていた。新聞紙バージョンでは今年の1月14日付朝刊に掲載されており、見出しは「英公的医療『不満』6割 財源不足 出産後にPTSDも」だった(電子版は1月12日付で、見出しは「英国、無料の公的医療サービス低下 支出拡大で立て直しめざす」)。記事の要約はおおよそ次の通りだ。

 英国の公的医療制度NHSは原則無料で平等な医療を提供してきたが、財源不足により医療の質低下と国民の不満が深刻化している。特に産科では説明不足や支援欠如が問題となり、出産後PTSDを発症する女性が年間約3万人に上る。背景にはリーマン・ショック以降の医療費抑制による人手不足や士気低下があり、待機時間の長期化や満足度の急落も招いた。労働党政権は支出拡大と制度改革で立て直しを図るが、政府だけでなく民間も含めた資金確保が不可欠と指摘されている。

 この記事が根拠としている英国民のNHSおよび介護サービス(NHSではなく地方自治体が管轄する有料のサービス)についての満足度調査は、エビデンスに基づく研究と政策分析を提供する独立した医療系シンクタンクであるThe Nuffield TrustとThe King’s Fundが毎年公表している調査報告書の2024年版に掲載されている。

 それによると、2024年に、それぞれのサービスに対して「非常に」または「かなり」不満(‘very’ or ‘quite’ dissatisfied)であると回答した人の割合(%)は、NHS全般が59%、病院の救急外来が52%、歯科が55%、GP(家庭医)が49%、介護サービスが53%だった。


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