2026年2月5日(木)

家庭医の日常

2026年2月5日

 いずれも、19年〜20年を境に「不満」の割合が、約20%台から半数へと急増している。この原因として、新聞記事では「リーマン・ショック(2008年)以降の医療費抑制による人手不足や士気低下があり、待機時間の長期化や満足度の急落を招いた」と書いている。私は、それに加えて19年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行による影響もかなり大きいのではないか思っている。

 この報告書では、NHSのサービスの中身について、図のような調査結果も示されている。

 NHSで提供されるケアの質と利用できる治療やサービスの範囲には、約半数が「かなり満足」しており、「かなり不満」は約4分の1である。それが、受診までの待ち時間になると、「かなり満足」は大幅に減少し、「かなり不満」が約3分の2まで増加する。

待ち時間のパラドックス

 このようないわゆる「待ち時間」は、医療制度に対する患者の満足や不満に大きく影響する要因である。医療の質を測るには他にも多くの指標の評価が必要ではあるが、「わかりやすい」と思われるためか話題になりやすい。

 GP診療所に関連する待ち時間が長引く要因としては、次のものが考えられる。

① 登録患者数の増加:20年から24年で約5%増加している。英国在住者はGP診療所に登録してNHSによる原則無料の医療を受けるので、移民の流入による数百万人にのぼる人口増が直接影響する。

② GPの不足:25年11月時点でのデータから算出すると、フルタイム換算のGP専門医は2万8698人(実人数は3万9770人、約7割が非常勤、57.2%が女性[22年])、GP専門研修医が9789人いる。GP専門医は19年以降約3.0%(852人)減少した。

③ マルチモビディティ:前回のこのシリーズ「高血圧予防にカリウムは有益なのか、害なのか?ナトリウムを減らすだけで良いわけでもない、悩ましい複数疾患との付き合い方」で説明したように、一人の患者に複数の慢性疾患や健康状態の問題が存在する「マルチモビディティ」(multimorbidity; 多疾患併存)が増加しており、それらを考慮して適切なケアを提供するには相当の時間がかかる。

 こうした要因によって、確かに医師への受診までの待ち時間は、長引く方向に圧力はかかる。しかし、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)が整備された諸外国で「待ち時間」を考える際には、「待ち時間のパラドックス」とも呼ぶべき事情を考慮する必要がある。PHCがまだ整備されていない日本と「待ち時間」だけを比較して医療の質を論ずることが的外れになることもある。

 まず、ここ数十年で、PHC先進国では、患者が一つの問題で医療施設に受診して医師の診察で完結するモデルから、複数の問題を多職種保健チームが分担して継続して責任をもつモデルへと変換してきた。次の項で述べる「トリアージ」もそうである。そのため、医師への受診のみの「待ち時間」の重みは相対的に少なくなっている。

 さらに、PHCでは予防や健康維持・増進、そして社会的資源の活用なども重要である。地域住民がそうした複数の取り組みに参画する場合は、「待ち時間」の定義は複雑になり、単純に比較することは困難である。


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