一時、1ドル=80円台の円高が到来したというのに、日本の上場企業の2010年9月中間決算は増収増益。マスコミの円高狂想曲は狼少年だったのではないかと思う人も多いだろう。10年11月半ば過ぎ、日経平均株価が一時1万円を回復した局面で、そんな解説をするアナリストが増えた。だが日本株の反発の実態は、そんな予定調和の産物ではない。
確かに11月以降、日本株は米国、欧州、アジア諸国に比べて上昇している。だが、これは米連邦準備制度理事会(FRB)による金融の量的緩和(QuantitativeEasing)第2弾を囃した、いわゆる「QE2相場」の徒花のような動きなのだ。カラクリはこうだ。
バーナンキFRB議長が大幅な金融緩和の可能性に言及したのは、8月27日の米ワイオミング州での講演だった。この講演を境に米国の株や債券は買われ、米ドルを元手に新興国の株や金、石油などの国際商品が買い上げられた。
米ドルで調達したマネーで世界中の資産が買われた結果、ドルは下落した。ドル安に伴う米企業の輸出採算好転を囃すかたちで、再び米国株が買い上げられたのだ。そんな宴が11月3日にFRBが実際にQE2に踏み切るまで続いた。
FRBにとっては、デフレを瀬戸際で防止するには不可欠な策だった。株高で米企業や家計が潤えば、いうことはない。その反対側で被害者がいた。大量のマネーの流入でインフレやバブルに直面する新興国?いやいや、彼らは米国を非難しつつ、経済は成長するし株は上がるしで、内心ほくそ笑んでいる。
本当の被害者はデフレ下の円高に見舞われたこの日本なのだ。米国による何でもありの景気テコ入れ策を読めず、ノホホンと構えていた菅政権の失敗はいわずもがな。ドルを元手にしたグローバルな資金の流れの中で、日本は金縛りにあった。とはいえ、マーケットの動きには、人間万事塞翁が馬のようなところがある。
FRBがQE2に踏み切り、投資家がそれまでの取引の手仕舞いに動いたお陰で、ドルは持ち直し、為替相場はやや円安気味になっている。11月末の円相場は1ドル=83~84円だ。史上最高値に迫る円高を受けて、大企業は社内想定レートを80円方向に動かしていただけに、この3~4円の違いは干天の慈雨ともいうべきものとなった。
日本株上昇の裏側
新興国の旺盛な需要に支えられ売り上げが伸びたことも、企業の業績を後押しした。この辺の事情に着目した外国人投資家が、11月に入って日本株の買いに動き、株価も上昇したのである。