ふっくらとして大ぶりのカキは、「これで一枚分?」と驚くくらいの量が、鉄板の上で焼かれている。それだけつまんでも、美味しそうだ。良い酒の肴だろう。
しかし、しばし待とう。横ではキャベツなどの具がたっぷりの、独特のお好み焼きが焼かれている。関西と広島の中間というロケーションそのままに、間をとった独特のお好み焼きが。
やがて、カキはそのお好み焼きを座布団に鎮座させられ、さらなる生地やら卵やらに包まれ、ひっくり返され、出来上がる。
カキオコである。香ばしいソース。みじん切りの青ネギと紅ショウガのコントラスト。
待って正解。カキはお好み焼きにぴったりの主演女優賞だ。豚三枚肉を相手役という、カキブタ玉も良かったか。焼きそばや焼きうどん、あるいは焼きめしを脇役というカキもメニューにあり、そそられる。
訪れたのが、カキの季節以前の夏場の主役、エビがたっぷりのエビオコも、まだ大丈夫な時期だったもので、そちらも美味しく食べてしまい、すでにお腹に余裕がない。次はもっとお腹を空かせて訪ねよう。
日生〔ひなせ〕は備前市と合併した海辺の地域である。漁港として名高く、カキの養殖も盛んだ。カキの養殖というと、同じ瀬戸内海ではどうしても広島のイメージが強い。しかし、ここも産地なのだ。瀬戸内海を見渡す高台から、あるいは、岡山ブルーラインの橋のあたりから眺めると、カキ養殖のイカダが並ぶ様が分かる。緑の島々の間の紺碧の海に浮かぶイカダの群れは、美味しいカキの産地であることを語っている。
その漁港、カキの町で必然のように生まれたのが、カキ入りのお好み焼きだった。私が訪れたのは、土地の友人がお気に入りだという「ほり」という店だが、「ひなせカキお好み焼きマップ」というものがあるくらい、多くの店がある。やっているお店を示す、カキオコののぼり旗が町中に目立つくらい名物である。それぞれの味を競っている。
このお好み焼きの存在を知ったのは、備前の友人の情報だった。ブログを見たのだ。吉行淳之介などの作家に愛されたことでも名高く、西日本を代表するとも言われる寿司の「魚正〔うおしょう〕」などの話と並んで、何度となくカキオコの話がブログに登場し、興味を覚えてしまった。
友人は藤原和〔ふじわらかず〕という。祖父が藤原啓〔けい〕、父が藤原雄〔ゆう〕という共に人間国宝で、その後を継ぐ陶芸家である。と同時に、「彼が言うのなら、美味しいに違いない」と信じられる、本当の美食家である。その彼が面白いというのだから。