「障害者だから、この仕事はできない」…?
今回は、人材派遣業のマンパワーグループの特例子会社ジョブサポートパワー(東京都立川市、社員数127人)の代表取締役・小川慶幸さんを取材した。
ジョブサポートパワーは2001年に設立され、03年に特例子会社認定を受けた。社員127人のうち、親会社からの出向者は13人、プロパー社員は114人。108人が障害者で、約9割は身体で重度が多く、約1割は精神、知的に障害を持つ。
創業期から、テレワーク導入に積極的に取り組み、全社員の半数以上が重度の障害を持つ在宅勤務社員である。通常は、インターネット電話サービス「Skype(スカイプ)」などを使い、仕事をする。障害者の社員が仕事の経験を積み、ほかの会社へ転職する「転籍制度」もある。これら一連の取り組みは障害者雇用の創出・推進につなげているとして、2016年に総務省より「テレワーク先駆者百選」として認定された。
小川さんは2008年に親会社から出向して以降、採用方針や就労環境など次々と改革を試みてきた。障害者雇用に奮闘する小川さんの目に映る「使えない上司・使えない部下」とは…。
「こういう仕事しかできないだろう」という偏見
多くの人が、自分のモノサシで「あの人は使える、使えない」と言っているのではないかな、と思います。客観的な基準があるわけではなく、その人のとらえ方でしかないのです。ある意味で自分勝手ですよね。
上司が部下と良好な人間関係を上手く保つことができないと、「あいつは使えない」とレッテルをはることがあります。この場合、おそらく、部下の能力を見極めて言っているのではないでしょう。
身体や精神の障害者を雇う会社には、これに似たような見方をする方がいるかもしれません。当社で働く障害を持つ社員の中には、こう話す人がたくさんいます。「前職のとき、仕事をきちんと任してもらえなかった。あなたは障害があるから、こういう仕事はできない、とレッテルをはられていた」。能力ややる気を正しく判断しようとする以前に、はじめから「この人ではできない」と結論を出されていたようなのです。
このとらえ方が、障害者の前向きな姿勢を否定することもあるのです。一例を挙げます。当社の社長室長は、在宅勤務をする女性社員です。彼女は、難病(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィ)で、病状は少しずつ進行し、現時点では完治する治療法もありません。
自宅でSkypeなどを使い、ほかの在宅勤務の障害者や本社の社員と仕事をします。ひたむきな姿勢は、ほかの障害を持つ社員たちに大きな影響を与えています。全社員がそれぞれの輝きを放つ中で、彼女の輝きはより一層に目立っています。昨年からは、社長室長として会社の経営に関わることもしています。独学で予算のことなども勉強し、今やよく心得ています。
彼女は、「この会社を辞める考えはない」と私に話します。これほどに前向きで、仕事ができるならば、労働条件が当社よりもいい職場が見つかるかもしれません。彼女が知る障害者を雇用する職場は障害者に対し、「こういう仕事しかできないだろう」という偏見があり、単純作業しか任せないようなのです。
彼女は、当社ではそのあたりが大きく違っていたと話します。ここには、障害を持っていようとも、それぞれの社員のスキルや経験、知識などが生きる仕事がたくさんあります。仕事の難易度も、健常者よりも高い場合があるのです。そこに、彼女はやりがいや生きがいを見つけてくれています。
「特別な人はひとりもいない。ひとりひとりが特別」
当社は、2009年から障害者の採用方針を変えました。面接試験などで仕事への適性やスキル、業務経験、潜在的な能力などを見据え、戦力になると思える人を採用しているのです。障害者を雇うために業務を作ることは、09年からは基本的にしていません。はじめに仕事があり、それを対応するのにふさわしい方を雇うのです。このようにすることが、障害者雇用を拡大させるためには大切だと考えています。
主な業務は、親会社に届くメールの対応や名刺や請求書などのデータ入力、インターネットを使った調査・集計、社内サイト整備などです。独自の営業で民間企業や公共機関からの契約受注にも力を入れています。ただし、納期が短く、障害者の社員にとって負担となりうるものは避けています。
私たちは、明確な根拠もないのに「障害者だから、この仕事はできないだろう」とは思いません。「できない」ならば、どうしたらできるようになるのか、と考えるようにしています。そこでまず、就労環境を整えることに力を入れてきました。在宅勤務の環境や健康面への配慮、労働時間の厳格な管理などです。そのうえで特に大切にしているのが、対話です。全員が互いの違いなどを尊重し、一緒に仕事をしていくようにしています。