世間には「障害者だから、この仕事はできないだろう」という見方の裏返しと思えるとらえ方もあります。以前、当社の採用試験で精神障害の方を内定にしました。後日、ご本人から内定辞退がありました。私がご本人に聞く限りでは、ご家族が障害者として働くことに難色を示し、健常者と同じように就労することを促しているようでした。世間体などを意識されたのかもしれませんね。その方は障害者手帳を持ち、通院をしていました。健常者と同じように働くことで、症状などが悪化しないかと私は心配しました。
それぞれの家庭のお考えやご事情があるので一概には言えないのですが、こういう話を聞くと、私は思うことがあります。「使える、使えない」の基準とは一体、何だろう。誰がそれを決めるのだろう、と…。それぞれの障害の部位や程度、病状は異なります。おのずと就労スタイルも違うでしょう。ところが、健常者の視点から、「障害者だから、この仕事ができない」「健常者として働くことが、障害者として就労することよりも価値がある」などと判断されているのではないか、と思うのです。
最近、障害者の社員が当社のホームページ制作で、素晴らしいコピーを考えてくれました。「特別な人はひとりもいない。ひとりひとりが特別」というものです。障害の有無や程度にかかわらず、誰もに違いがあり、そこに特別な人はいない、という思いが上手く表現されていると思います。私たちが忘れがちなことですね。
「せっかく、こんなチャンスがあるんだから…」
当社では、障害者の社員が在宅勤務をする場合、グループで行うことを特に重視しています。1グループは多い場合は通常7人程です。前述の社長室長の女性は、グループのリーダーとして他の障害者の社員を引っ張っています。彼女は、グループのメンバーのことを「使える、使えない」なんて言いません。直属上司である私は、1度も聞いたことがありません。「あの人は、障害者だからこの仕事はできない」とは、おそらく、根本から思っていないのではないでしょうか。
彼女よりも、重い症状の社員は当社には少ないのです。その彼女が「がんばらなきゃ!」と声をかけるから、皆がついていくのです。彼女がメンバーに言うのは、その仕事をきちんとできる力やスキル、経験がありながら、取り組もうとしないときです。「せっかく、こんなチャンスがあるんだから…」とさとすのです。その人の力に応じた仕事をして、自分をより高めることができる機会を生かさないといけない、と言わんとしているのでしょうね。
仕事に挑戦することで自信を持ち、大企業などに転職をする人もいます。これを当社では、「転籍」と呼んでいます。賃金など労働条件がもっといい会社や取り組みたい仕事ができる会社に移りたいと申し出る社員を私たちは引きとめることはしません。当社に残ってほしいという考えはありますが…。転籍した障害者の社員のほぼ全員が、当社よりも賃金の高い職場で働いています。次の職場では、正社員や契約社員など様々なスタイルで就労しますが、契約期間などを終えて、当社に戻ってくる場合もあります。
自信を持った障害者の社員が増えていくと、障害者への偏見も変わっていくのではないか、と思います。雇用する会社も増え、それぞれの職場でその人にふさわしい仕事が与えられ、大きな活躍をしていく。その繰り返しで、障害者雇用が増えていくのだと私たちは考えています。これを後押ししてくれるのが、障害者の社員やかつて在籍した障害者の社員たち、そしてそのご家族です。
「障害があるから、この仕事はできないだろう」なんて見方はありえない、と私は思いますね。
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