運用利回り3割超。金や資源を抑え、食料関連ファンドが実績を伸ばす。
需給ギャップの拡大に、金融緩和による大量のマネー流入が拍車をかけ、食料価格は高騰し、中東各国で社会不安の連鎖が広がっている。
日本経済が頼みの綱とする中国などの新興国も、同じ問題を抱えている。
このうねりは、わが国にとって対岸の火事ではない。
1月26日から30日までスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。菅直人首相も押っ取り刀で駆けつけ、「開国」路線を訴えたが、各国首脳や経営者の心はそこになかったはずだ。1月27日に米格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)が日本国債を格下げしたことに「疎い」と答えた首相が、そっぽを向かれたのではない。
財政・金融の爆弾を抱えている点では欧州も同じどころか、ギリシャ、アイルランドとドミノ倒しの真っ最中にある。だからこそ、「慎重な楽観(コーシャスリー・オプティミスティック)」な雰囲気を醸し出そうとしたものの、会議直前のチュニジア政変で事態はそれどころではなくなった。アルジェリア、イエメン、ヨルダンなどに飛び火した。何といっても世界を震撼させたのは1月25日に一気に爆発したエジプト情勢の激変だ。
1981年にサダト大統領が暗殺されてから30年近くこの国を治めてきたムバラク大統領は、退陣を求めるデモの嵐になすすべを知らない。エジプトと同盟関係にある米国は改革を求めながらも、急速な事態の進展に当惑している。ムバラク後の政治が混迷を深めれば、イスラム原理主義が台頭するのは必至。中東は今や火薬樽のうえにある、といった見方が一般的だ。
米S&Pは1月27日、チュニジアのような政情不安に見舞われやすい国として、エジプト、アルジェリア、ヨルダンを挙げた。混乱が起きてからリスクを指摘されても、何を今さらといったところだろう。日産自動車が現地工場の操業一時停止に追い込まれるなど、日本企業への影響も広がっている。
成長見込める中東?
チュニジアの政情不安の背景は、若年人口比率の高さや失業率の高さだが、食料価格の高騰が「ジャスミン革命」の火を付けた。同じ要因をエジプト、アルジェリア、ヨルダン、モロッコも抱えている。S&Pはチュニジアの自国通貨建て債務をAマイナスからBBBプラスに引き下げると発表したが、それでも格付けはギリシャのBBプラスより高い。
そのことは、世界経済を考えるうえで重要な教訓を投げかけている。ほかでもない。このところの新興国ブームで、新興国に対する投資の評価が甘くなりがちであるということだ。人口の多さは消費拡大や経済発展を促す大きなパワーだが、一歩間違うと不満と混乱の源にもなる。
エジプトの食料事情については、2010年11月の議会選挙に際して米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が「ハートをつかむには、胃をつかむにしかず」と詳しく報じている。それによれば、8000万人弱とアラブ諸国の中で最大の人口を抱えるエジプトでは、所得が1日1ドル以下の貧困層が5人に1人。世界最大の小麦輸入国であり、1420万人以上の貧困層へ補助金つきのパンを支給するために毎年800万トンの小麦を輸入している。
食料価格上昇率は20%近い。10年夏にはトマトなどの基本食料品価格は300%も値上がりし、家禽が40%、他の肉は25%上昇した。ムバラク政権が04年に始めた経済自由化政策は年5%の成長をもたらした半面、貧富の格差を拡大した。リーマン・ショック前の08年の食料価格高騰に際して、パン屋を襲う騒動が起きたが、今回の政変劇も根っこは同じ問題だ。