2024年11月24日(日)

WORLD CURRENT

2011年2月21日

 確かに、このところの食料価格の急騰ぶりをみると、凄まじいものがある。トウモロコシ価格は1ブッシェル6.8ドル程度で2年半ぶりの高値。大豆も14ドル程度で半年前より5割ほど高くなっている。コーヒー豆も、ここ4~5年で2倍ほど上昇。FAO(国際連合食糧農業機関)によると、11年1月の食料価格指数が、直近のピークをつけた08年6月を上回り、過去最高水準となった。

膨張する食料ファンド

 中国、インドなど新興国の食料需要が増大しているのに加え、穀倉地帯であるロシアの干ばつ、オーストラリアの洪水など、供給面の懸念が食糧危機のムードを煽っている。こうした空気の変化を敏感にとらえ、シカゴの先物市場などでは投機マネーが食料に流れ込んでいる。

 日本の投資マネーも例外ではない。

 グローバル・アンブレラUBSフード(豪ドル)。純資産約82億円(2月1日現在)のこのファンドの10年の運用利回りは36.21%に達した。

 投信調査会社のモーニングスターによれば、商品ファンドのなかで、金や資源などを抑え昨年抜群の運用利回りを上げたのは、この食料関連のファンドだ。10年物国債の利回りが1%台のご時世にあって、年3割以上の利回りは信じられない高水準だろう。どの国でもその高利回りが投資家の資金を引き付け、そのマネーがさらなる食料価格の高騰を招いている。

 投資マネーのエンジンを吹かしたのが、10年11月の米連邦準備制度理事会(FRB)による追加的金融緩和だったのは、いうまでもないだろう。11年6月末までに米国債を6000億ドル購入する量的緩和第2弾(QE2)は、米景気の腰折れとデフレ入りを土俵際で食い止める一方、世界的にドルを垂れ流しインフレとバブルの種をまいた。そんな批判があるのを承知の上で、バーナンキ議長が異例の記者会見をするなど、FRBは自らの政策の正当化に忙しい。

 地区連銀のひとつで、イエレンFRB副議長がトップを務めていたサンフランシスコ連銀は、量的緩和は12年半ばまでに米国の失業率を1.5%低下させるとの分析を発表した。国内総生産(GDP)も12年下半期までに約3%増加させるという。

 米国の政策はあくまで、自己本位であることを忘れてはならない。「短期的にはインフレの上方圧力」。年明け早々、そんな指摘をし始めたのは、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁だ。「財政・金融不安のさなかにあって、何でまた」という疑問もわいてこようが、謎を解くカギは食料、エネルギー価格の高騰にある。11年1月のユーロ圏の消費者物価上昇率も前年比2.4%と、じわじわ上昇している。

 そして、中国の動向が見逃せない。人民元相場の上昇を抑えるための、為替市場での介入で放出された人民元が過剰流動性を招きつつあるところへ、世界的な食料、エネルギー価格の上昇が追い打ちをかけている。消費者物価上昇率は10年11月に5.1%に達し、12月も4.6%だった。1989年の天安門事件も元はと言えば、食料価格の高騰が引き金だったから、中国指導者も安閑としてはいられない。

 かくて11年の世界が直面するのは、食料を起点としたインフレと社会不安の連鎖のリスクなのである。食料価格の高騰は、今年フランスが議長国となる20カ国・地域(G20)と8カ国(G8)の首脳会議(サミット)でも、主要議題になる見込み。現にサルコジ仏大統領は、食料に対する投機の規制を提唱している。

 翻って、わが日本。社会保障と消費税の問題で暗礁に乗り上げた与野党の政治家には、こうした危機シグナルが目に入っているのだろうか。

 

◆WEDGE2011年3月号より

 

 


 

 

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