2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年10月25日

 痛い、ちょっとしたミスで採血部分が腫れあがるなどトラブルが多い腕からの静脈採血検査。これを、簡単な器具を使うことにより、指頭と呼ばれる指先から、これまでの数十分の1に相当するわずか0.2㍉㍑の血液を数秒で採取ができる超カンタンな多機能微量採血管「キャピラリーカップ」が開発され、一部で導入が始まっている。これを考案、開発したのは東京・板橋区に本社のある医療機器販売会社のジャパン・メディカル・リーフの有岡和彦社長で、本社で実際にこの微量採血のやり方を見せてもらいながら、導入に向けての意気込みを聞いた。

キャピラリーカップ

わずか数滴の血液

 腕の静脈から採血する方法は当たり前のように過去数十年にわたり病院などの医療機関で実施されてきた。あまり知られていないが、医療機関での採血時の針刺し事故、トラブルは意外と多いのが実態で、気分が悪くなり気を失うケースもある。こうした実態を長年見てきた有岡社長は、何とか簡便で痛みの少ない安全で効率的な方法はないかと、日赤医療センターの臨床検査部に勤務していた現取締役の喜島康雄氏(臨床検査技師)と一緒に研究を重ねて開発に成功したのが、3㌢㍍ほどの「キャピラリーカップ」を使った指先からの採血手法だ。

 採血管の中に入っている独自開発した分離フロートにより、遠心分離後に上部の血漿層から肝機能や脂質など生化学検査ができ、下層部分の血球層からは糖尿病の検査には欠かせないヘモグロビンと糖との結合割合を示すHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)など従来法の静脈血とほぼ変わらない数十項目を調べられるという。

採血困難者に朗報

有岡和彦社長

 現在、乳幼児や高齢者の場合、注射器の針を刺す静脈が見つけられず採血困難で検査ができないケースもあり、その数は数百万人ともいわれている。このため、微量採血に変更すると、現場の負担も大幅に軽減され、有岡氏によると、自宅で自分で採血ができれば採血困難者の数を大幅に減らして、生活習慣病などの疾患をいち早く見つけ出すことが可能になるという。

 この方法では、採血した検体を郵送により検査することができることから、外出が困難な離島に住んでいる住民や高齢者に採血の機会を提供できる。これにより、これまで見過ごされてきた隠れた病気の発見に役立ちそうだ。

 現に2021年には延岡市が、生活習慣病重症化予防事業の一環としてキャピラリーカップによる採血を数千人対象に行った。その結果、採血をしてなかったため見つけられなかった重症患者を発見することができたという。こうしたことを積み重ねていけば、高齢や採血を嫌がって受診していなかった隠れ病患者に対しては、有効な検査手法になる可能性がある。

血液が大量に捨てられている現実

 有岡氏は、これまでの方法での検査の現場を長年にわたり実際に見てきた。それによると、実は検査内容によっては、採血管2本で7㍉㍑採取された血液で使われるのはほんの微量(数滴)で、残りは廃棄されている。処分される血液の割合は9割のものもあるそうで、毎日多くの国民が採血していることを考えると、膨大な量の血液が無駄に医療廃棄物として捨てられていることになる。

「これだけの大量の血液の廃棄されている実態は、担当医師、採血している看護師なども含めてほとんど知られていません。採血されてきた国民には知る権利があります。われわれの手法では、それほどの血液は検査には全く必要なく、指先からの血液数滴で十分同じ精度の検査できる」と訴える。 

 つまり検査に必要な最低量だけを採血すればよいわけで、この指頭からの採血方法がすべてにおいて効率的だと言える。 

静脈採血と同様の検査データ

 この手法を導入するに当たっては、注射針を使った静脈からの採血と、指先からの「キャピラリーカップ」を使ったのとで、同じような検査結果が得られるのかがポイントとなる。自治医科大学附属さいたま医療センターが検査ボランンティア38例による指頭採血と静脈採血のデータを、14の検査項目で比較したところ、両方の相関関係は相関指数が0.88〜0.99となるなど、非常に高い結果が得られ、「静脈採血による検査とほぼ同等の結果が得られた」と報告されている。


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