普及への期待感
この方法を導入しているいる葭山(
実際には病院など大きな組織に導入するとなると、従来の採血方法から一挙に変えるのではなく、徐々に、場合によっては共存しながら変えていく必要があるかもしれない。医療の現場は既得権益が多くあるだけに、長年行ってきた採血システムの変更を行うには時間がかかりそうだ。
効率的な職場で採血
今年5月には税理士法人松岡会計事務所(大阪府八尾市、松岡敏行代表)では、同社の産業医の紹介で看護師に事務所に来てもらい社員約30人がこの方式で採血を行った。松岡代表によれば「一人当たり内科診断も含め採血まで10〜15分で終わり、事務所の中でできたので効率的だった。これまでのように病院まで出向いて行うとなると半日もかかっていたので、それと比べると事務所にとっては大助かりだった。また、従来方式の採血を行うと気分が悪くなっていた社員は、この方式では何の問題もなくできた。痛さもなかったため心理的な負担も少なく、今後はこの方法による検査をさらに増やしていきたい」と評価している。
感染症の検査にマッチ
有岡社長は今後、健康診断や、人間ドックなどの際に行われる血液検査が、一部は自由診療になるが、痛みの少なくて簡単にできる、この微量採血方式に代替されることを期待している。
島根県のある外国人労働者が多く勤務している工場では、多くが従来方式の静脈からの採血を拒否するため、検査ができないで困っているという。そこで同県では外国人労働者に対して、微量採血の実証実験を来春にも行う計画で進めており、今後はこの方式を全国に広めていきたいとしている。
また、東京都・板橋区では、中学1年生になるとすべての生徒を対象に貧血検査を行うため静脈からの採血を行っているが、簡便なこの方式への変更を提案していきたいという。
この数年、梅毒、HIVといった性感染症が急増して、医療関係者はこの患者数増加に危機感を強めている。このため有岡社長は「こうした感染症の検査には、簡単にできる微量検査が向いている」と指摘する。
分析装置が自動化しても変わらなかった採血量
有岡氏によると「血液分析が自動化される前は、血液を多く必要するピペットなどを使用した用手法でした。その後、処理能力の高い分析装置が開発され、使用する血液の微量化が一気に進みました。使用する血液が少なくなると分析に使用する試薬量も少なくなりコストダウンができました。そうすると、血液検査の保険点数が下がることにより、さらにコスト低下が必要になり、より微量化がさらに進みました。しかし、採血量は変わっていないのが現状です。装置、試薬、採血管各メーカーが採血をされる方々のことを考えてこなかったと言われても仕方ないと思います」と指摘する。
課題は血液分析装置の更新
個人が自己採血を行うことは医療行為ではない。しかし医療機器を製造販売するためには、厚労省から製造販売認証番号を取得しなければならない。有岡氏によると、「キャピラリーカップ」の製造番号を取得するまでに約4年もかかったという。「やっと番号を取得できたので、これからはこの超カンタン採血手法をできるだけ普及させて、生活習慣病など疾患の早期発見などに貢献していきたい」と話す。
この方式を病院に導入する際に最大の課題になるのが、採血した血液は現状の大きさの採血管を使って分析する流れになっているため、「キャピラリーカップ」のように小さくなると、血液分析装置へ血液をセットする前処理に手間がかかるため時間がかかる。また現在の血液分析装置は、微量血液からの分析に適さない装置もある。微量血液から分析できる装置の導入は数千万円の費用負担になるため、新たな装置の導入は敬遠しがちになる。
有岡氏は「現在、微量血液からの分析が普及できるよう検査設備機器の開発を進めている」としており、微量採血に対応した検査設備の早期実用化が必要不可欠になっている。『採血革命』を実現するためには、こうした検査の「下流」部門の改良、改善が必要になる。「痛みの少ない安全な採血」の実現に向けて粘り強い普及活動が求められている。