Wedge REPORT

2018年4月27日

»著者プロフィール
閉じる

中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

1億円を超える世界最高薬価

問われる保険適用の可否

 実際の遺伝子治療はようやく緒についたところだ。17年7月までに全世界で約2400件もの遺伝子治療の臨床研究が行われてきたという。しかし、販売が承認された治療製剤はわずか10件で、日本での承認はない。

 開発が順調に進展しなかった理由は、リスクの見極めの難しさにある。いままでの化学薬剤とは異なり、一度遺伝子を改変すると、長期にわたり人体に影響を及ぼす。欧州ではその副作用で白血病を発症し、被験者が死亡した悲劇もあった。そのため、数年以上の緻密な安全性評価が必要となり、さらに規制を厳格にしたことで研究マインドは冷えていった。しかしこの教訓は生かされ、この数年、欧米でより安全な遺伝子治療の承認が相次いでいる。そこに新しい技術であるゲノム編集が加わり、熱い視線が集まっている。

 北海道大学の石井哲也・安全衛生本部教授は、開発費用と保険適用の問題を喚起する。「欧米で承認された遺伝子治療製剤は、患者一人あたり数千万円以上と軒並み高額で、中には1億円以上と世界最高薬価を記録した製剤もある。
 国からみれば高額薬の登場は財政上の問題だ。しかし、患者数が少なく、真に有効な治療法がなかった希少疾病に対する遺伝子治療製剤でさえ国の健康保険でカバーしないなら、それは国民皆保険制度の趣旨から外れる」と指摘する。実際、英国は希少疾病に対する遺伝子治療は保険対象とする見通しだ。

 それだけに承認する側の厚労省としては慎重にならざるを得ない。しかし、これをあまりにも厳しくし過ぎると、製剤を開発する側の意欲をそぐことになり、そのバランスが難しい。同省ではがんや難病の治療に遺伝子治療を役立てようと、治療のガイドラインの見直し作業を進めている。また、がん患者の遺伝子情報に基づいて最適な治療薬を選ぶ「がんゲノム医療」を4月から全国規模で行うことになり、同省は3月27日に100の病院を指定した。手術、抗がん剤、放射線など従来の治療法では効果がなかった希少がん患者などに対して、遺伝子を調べ、臨床研究の結果で適した薬があれば投与、治療する。

関連記事

新着記事

»もっと見る