2024年12月23日(月)

Washington Files

2018年7月17日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ政権発足以来、地球温暖化対策、希少動植物保護、海洋・水質汚染対策などオバマ前政権が真剣に取り組んできた一連の環境保護政策が、次々に反故にされている。代わって、石油開発、石炭その他の鉱山掘削といった環境破壊につながりかねない開発が、ホワイトハウスの後押しで息を吹き返しつつある。

 「米国は地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定から離脱する」

 昨年6月1日、トランプ大統領が読み上げた声明は、世界中に衝撃を与えた。

 だが、同政権下の反環境主義は、大統領就任前から、すでにその布石が敷かれていた。トランプ氏が早くから「地球温暖化は人為的な原因によるものではなく、気象上の自然要因によるもの」との自説を展開してきた強硬派のスコット・プルイット氏を環境保護長官に起用することを決め、同長官就任と同時にオバマ前政権当時の環境政策について抜本的見直しを画策していたのだ。

トランプ大統領と、プルイット氏(REUTERS/Kevin Lamarque/File Photo/Aflo)

 とくにプルイット氏の過去の経歴はトランプ氏の意にぴったりかなったものだった。

 南部保守主義の牙城オクラホマ州上院議員を8年務めた後、州司法長官就任以来、大気汚染、水質汚染などの環境規制措置を次々に撤廃し、その一方、石油開発、精油関連業界から多額の政治献金を受け取って来た。とくに州司法長官在任中には、オバマ政権下の環境保護庁を相手取って最低14回にわたり規制撤廃の訴訟を起こすなど、話題を振りまいたことでも知られ、筋金入りの反環境主義者だった。

 そのプルイット氏が大統領の肝いりで環境保護長官に就任後、連邦政府の環境政策は環境保護より開発重視型へと大きくシフトしていったことはいうまでもない。

 ではトランプ大統領就任1年半の間に、具体的にどのような後ろ向きの環境政策や措置がとられてきたのか、以下におもなものを順を追って列挙してみることにする。

  1. オバマ前政権下で施行された北極海、太平洋、大西洋の一部海域における石油・ガス掘削禁止措置を見直し、オフショア開発拡大を認める大統領命令に署名(2017年4月28日)
  2. 大気・水質汚染対策研究開発費の大幅カット、環境保護庁関連予算の前年度比31%削減案を議会に提出。この結果、同庁勤務の職員3200人が失業に追い込まれた(同年5月13日)
  3. G7はじめ世界の194カ国が参加するパリ協定からの離脱発表(同年6月1日)
  4. アパラチア山脈沿いの炭鉱周辺の住民を対象とした健康調査と水質汚染のリスクに関する総合調査プロジェクトの打ち切り(同年8月22日)
  5. 内務省が、メキシコ湾領海内の7700万エーカーに及ぶ海域での石油・ガス掘削権について公開入札を発表(同年10月23日)
  6. トランプ大統領が地球温暖化について、オバマ前政権までの立場を180度転換し、「米国はもはや温暖化を国家安全保障上の脅威とはみなさない」との見解を発表「気候変動対策はあくまでグローバルなエネルギー・システムの中で取り組むべきであり、わが国は自国の経済・エネルギー安全保障にとって有害となる課題には対抗していく」と強調(同年12月18日)
  7. 気候変動緩和、代替エネルギー関連研究開発予算の大幅カット、国務省管轄下の「グローバル気候変動イニシアチブ計画」の廃止を決定(2018年2月12日)
  8. プルイット長官が、乗用車および小型トラックを対象とした温室効果ガス排出規制について、オバマ政権時代の厳しい措置を見直すと発表(同年4月2日)
  9. ホワイトハウスが、絶滅の恐れのある約300種の希少動植物保護を目的とした密猟、立ち入り禁止措置などの規制見直しを発表(同年4月2日)
  10. 科学雑誌「サイエンス」が、科学関連予算の中から年間1000万ドルのNASA(連邦航空宇宙局)「一酸化炭素モニタリング・システム」予算が打ち切られた、と報道(同年5月9日)

 米国主要各紙が伝えるところによると、これらの措置はホワイトハウス、環境保護庁、内務省の緊密な連携プレーの下で実施されてきたが、いずれの場合においても、決定的役割を果たしたのは、プルイット長官で、「パリ協定」離脱を大統領に熱心に勧告したのも彼だった。このほか、同長官の下で、手直しや取りやめとなった環境規制措置は、70項目以上にも達するといわれる。


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