米国民主主義が、トランプ政権発足以来、大きく揺らいでいる。「アメリカ・ファースト」の名の下に、ホワイトハウスがあいついで打ち出してきた破天荒な外交、通商、移民政策をめぐり内外で批判が高まる一方で、共和党主導の議会はなすすべがなく、“大統領のプードル”になり下がった、との厳しい指摘すら出始めた。
「11月中間選挙で共和党に反対投票を」―去る6月17日、共和党保守派の大物論客として知られ、永年ワシントンポスト紙のコラムニストとして健筆をふるってきたジョージ・ウィル氏が同紙にこんな見出しの論考を寄せ、ワシントン政界に波紋を投げかけている。
ウィル氏はまず、トランプ大統領が最近打ち出した、不法入国者の親子引き離しを含む冷酷ともいえる移民政策見直し措置をやり玉に挙げ「現在の共和党議会は、行政府の暴走を連邦議会でチェックするため設けられた憲法第1条の権限を十分発揮するどころか、大統領権限に言及した憲法第2条に翻弄され、無脊椎動物と化した」と断じた上、ポール・ライアン下院議長をはじめとする共和党議会指導部について「今や大統領のプードル同然になりさがった」と酷評した。
そして、憲法で規定された議会が果たすべき本来の役割に立ち返るためには、議員たちが一度みじめな境遇に追い込まれ反省し目覚める必要があるとして、11月中間選挙では有権者に対し、とくに下院での共和党候補への投票を拒否するよう呼びかけた。
もともと共和党はその歴史を振り返ると、人種間の融合や世代間の対立回避など、小異を捨て大同に付く「ビッグ・テント」(大天幕)の名もある伝統を誇りとしてきた。南北戦争で黒人奴隷制度の廃止を旗頭に南部民主党と戦ったのも共和党だった。
20世紀後半にはいってからも、ニクソン、フォード、レーガン、ブッシュ親子各歴代共和党政権がそうであったように、穏健な保守主義を基本スタンスとし、自由貿易推進、同盟国との関係強化、対外コミットメント重視といった一貫した内外政策を推進してきた。
これに対し、トランプ・ホワイトハウスは政権発足当初から、こうした共和党の伝統にあえて背を向けるかのような常軌を逸する内外政策を打ち出してきた。
アラブ、中南米諸国からの移民制限、NATO(北大西洋条約機構)批判、TTP(環太平洋経済連携協定)離脱、国連軽視、日欧など世界主要国相手の輸入関税増税、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱などの例を挙げるまでもない。