中国国民の支持形成は、もっぱら歴史教育とメディア宣伝に負う。新華社電の「中国人の空母の夢」で「1840年のアヘン戦争から1949年の建国まで、中華民族は470回余り海上から外国の侵略を受けた」と伝え、海の守りの重要性を強調した。アヘン戦争以来、列強や日本の侵略を受けた、この歴史的な劣等感が中国人のナショナリズムの出発点となっている。
脅威論から相次ぐ質問
8月20~22日、日中の有識者が毎年1回集まって広範な問題を議論する「北京-東京フォーラム」が北京市内で開かれ、取材した。外交・安全保障の分科会では、日本側から尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や中国の空母保有計画をめぐり「中国脅威論」に基づく発言や質問が相次いだ。
石破茂・元防衛相は空母保有について「中国の国防白書には何も書かれておらず、なぜ空母を持つのか誰も明らかにしていない。お互いの疑心暗鬼をとりのぞかなければ、軍拡は止まらない」と述べ、軍事の透明性向上を求めた。中国の軍事科学院研究員、姚雲竹氏(少将)は「国防力増強は完全に自衛のためであり、中国は平和の道を行く」との原則論を述べ「空母を持つ国は多いのに、なぜ中国だけが持ってはいけないのか」と反発した。また、中国の陳健・元駐日大使は(1)日本が中国を仮想敵にしている(2)日米同盟に反対(3)日米による台湾問題への干渉を懸念―などを主張した。
安全保障のジレンマ
「安全保障のジレンマ」という言葉がある。ある国が軍備を安心できるところまで強化すると、相対する国は脅威に感じて軍備を増強し、軍拡が連鎖するという意味だ。中国の空母保有によって、日本など周辺国は防衛力強化を検討せざるを得ない。日米安保体制の強化や中国包囲網づくりが模索されよう。それは中国の利益にも、地域、国際社会の利益にもならない。中国はそれをきちんと認識すべきだ。
フォーラム終了後の記者会見で、その点について質問した。
中国国際関係学院の楊伯江教授は「日本の専守防衛における必要最小限の装備と比べれば、中国の空母を含む装備はまだそのレベルより下にある。日本など周辺諸国の反発はあろう。相互理解を進める中で、中国は空母保有戦略を諸外国に理解してもらわないといけない。中国は空母によって海外にある自国の経済的利益を守るほか、海難救助など非軍事的な役割も果たそうとしている」と説明した。
「平和的な台頭」繰り返す
このように中国側の出席者は、中国は「平和的な台頭」を目指しており、他国の脅威にはならない、と繰り返し強調する。しかし、中国指導部は2008年、鄧小平氏(故人)の外交方針「韜光養晦」(才能を隠して現さない)を見直し、領有権や海洋権益を積極的に主張する強硬方針に転じた。その結果、東シナ海や南シナ海で海洋摩擦が頻発し、昨年は尖閣沖で中国漁船衝突事件が起きた。そこへ今回の空母保有計画の公表と続けば、日本など周辺諸国の中国脅威論が強まるのはもっともだろう。