2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2019年1月10日

 トランプ大統領が昨年末、強引に決断した「米軍のシリア撤退」が迷走している。大統領は当初、即時撤退を命じたが、議会や同盟国などの反対に遭って、「慎重に時間を掛けた撤退」へと前言を撤回した。撤退には数年かかる可能性も指摘されており、大統領の決定に抗議して政権を去ったマティス前国防長官の辞任は何だったのか、あらためて疑問の声が上がっている。

(AP/AFLO)

“酔っ払った水夫”のよう

 それにしてもトランプ政権のシリア政策はまさに「迷走」という言葉がぴったりだ。大統領は選挙期間中から、当時のオバマ政権のアサド・シリア大統領の追放という方針を批判、シリアへの関与をやめる考えを明らかにしていたものの、大統領就任後、イランの脅威を食い止めるために必要、との側近らの進言を入れ、長期駐留を追認していた。

 しかし、大統領は12月19日のツイッターで、過激派組織「イスラム国」(IS)に歴史的な勝利を収めたと宣言。「若者たちを国に返す時だ。全員が今戻りつつある」とシリア駐留部隊の即時撤退を唐突に発表し、「30日」以内に撤退するよう命じた。これにマティス国防長官が翻意を迫ったが失敗、抗議して辞任する騒ぎにまで発展した。

 大統領のこの突然の決定には、議会の与党共和党からも批判が相次ぎ、側近も懸念を深めた。こうした大統領の態度が急変したのは12月23日、トルコのエルドアン大統領と会談してからだ。トランプ大統領は「関係国と調整しながら慎重に撤退を進める」と修正を始め、年末にイラク・シリア米駐留軍司令官と会談した後、撤退期間を「4カ月」に変更した。

 こうした混乱ぶりをニューヨーク・タイムズなどメディアから批判された大統領は1月7日「適切なペースで慎重に撤退を進めている。最初に発表した計画と何ら変わりはない」と強弁し、まるで即時撤退など言ったことがないように主張。“落ち目の”ニューヨーク・タイムズなどが自分の発言をいい加減に報道している、と怒りの矛先をメディアにぶつけた。

 下院で多数派となった民主党のアダム・スミス新軍事委員長は大統領のシリア政策を「酔っ払った水夫のようにコロコロと進路を変える。彼は何をやっているか分かっていない」と痛烈に批判した。軍事アナリストは「4カ月でシリアから完全に撤収するのは不可能。数年かかる可能性もある」と指摘している。


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