2024年11月25日(月)

WEDGE REPORT

2018年12月27日

 マティス国防長官の2月辞任をいったんは受け入れたトランプ大統領は長官が辞表の中で大統領を批判したことに激怒、辞任時期を年内に前倒しするという報復に出た。事実上の解任だ。「メディアが長官を英雄視したことに嫉妬した」(専門家)というのが大きな理由だ。マティス氏が去って政権にはイエスマンばかりが残り、大統領は“裸の王様”になった。

マティス国防長官(AP/AFLO)

自分の方が英雄だ

 まず今回の辞任劇で驚がく的なのは何といっても、トランプ大統領がマティス国防長官の辞表を読んでいなかったことだ。マティス氏は辞表の中で「米国は持てる力すべてを使って同盟国を率いなくてはならない」「強固な同盟維持、同盟国への敬意なしに国益は守れない」などと述べ、同盟関係こそ米国の力の源泉であることを強調している。

 これは同盟国を軽視し、貿易赤字の解消や軍事費の公平分担を優先させる大統領の世界観を厳しく批判したものだったのは言うまでもない。大統領が独裁的な政権に寛容であることも批判、「当初から世界観をめぐる違いにより、衝突は必至と見られていた」(米紙)ことが現実になった。

 大統領がマティス氏の辞表の内容を知ったのは提出された辞表を読んだのではなく、テレビなどのメディアを通じてだった。大統領が文書類をほとんど読まないことは政権を去った元高官らが何度も指摘している通りで、もはや意外でもないが、辞表に目を通さなかったのはそうした大統領の習慣性の延長であり、ルーズな業務遂行ぶりを示すものだろう。

 米メディアによると、大統領はテレビで初めて自分が批判されていることを知り、怒りが増幅していったという。とりわけメディアがマティス氏について、大統領を諫めた人物として英雄視していることに我慢がならなかった。過激派組織「イスラム国」(IS)を壊滅させ、シリアから米国の若者を無事に帰国させようとしているのは「大統領である自分であり、私こそ英雄だ」とメディアの報道に反発した。

 「この背景には大統領のマティス氏に対する嫉妬心がある」(専門家)。「己が一番」と自尊心の強い大統領はなによりも、自分よりも目立つ部下が嫌いだ。かつて大統領の側近中の側近といわれたバノン元首席戦略官がホワイトハウスを動かしているのが自分だとばかりに振る舞い、タイム誌の表紙をも飾ったが、これに大統領が嫉妬し、更迭につながる要因になった。

 幾多の戦争経験を持ち、「勇者」とのあだ名を持つマティス氏に対して、大統領が同様の感情を持ったと推察するのは容易だろう。トランプ氏は12月23日、マティス氏の2月辞任を撤回し、パトリック・シャナハン国防副長官が来年1月1日に国防長官代行に就任する、と一方的にツイッターで発表した。

 マティス国防長官は2月のNATO国防相会議に出席し、欧州を防衛するという米国の公約をあらためて確約することを望んでいたが、大統領の発表は長官の意向をくだく報復人事だった。マティス氏には大統領の指示でポンペオ国務長官が伝えた。


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