2024年12月10日(火)

中東を読み解く

2018年11月24日

 トランプ米大統領はこのほど、反政府サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害が「ムハンマド・サウジ皇太子の命令」という米中央情報局(CIA)の結論を一蹴。皇太子の関与があったかどうかは不明とし、あくまでも「皇太子に累が及ばない」幕引きを図る姿勢を鮮明にした。しかし、議会はサウジへの制裁法案を採決する見通しで、大統領との対決が激化するのは必至。

(Martin Janecek/Gettyimages)

「大金積めば殺人も帳消し」

 事件に対するトランプ大統領の対応は一度、「史上最大のもみ消し」とサウジを非難したことを除けば、終始、皇太子擁護の考えを表明してきた。CIAの報告を受けた11月20日の声明では、皇太子が関与を否定していることに触れ、「事件に関する全容を知ることはできないかもしれない」と述べ、自らの情報機関の結論を軽視する姿勢を示した。

 大統領はさらに「サウジはイランと戦う上で重要な同盟国」とイランの脅威を強調。サウジが米国から約1100億ドル(12兆円)に上る兵器を購入する契約を結んでいることや、米国に4500億ドルを投資する計画であることなどを指摘し、経済関係を重視する考えをあらためて表明した。

 大統領は22日になって再びCIAの結論に言及。同局の指導者は皇太子が関与したという「感触を持っている」だけと述べて、その分析に疑問を呈した。トランプ氏は就任前から、CIAなどの情報機関が自分のロシアでのセックス・スキャンダルを故意にリークしているとして不信感を抱いてきたが、今回もそうした不満が前面に出た格好だ。

 特に大統領は100%確定的な証拠がない中でサウジ非難が高まっている現状に反発、「こんな基準がまかり通れば、米国は同盟国など持てなくなる」とサウジを擁護した。しかし、大統領の主張は米国第一主義を掲げ、米国が培ってきた自由や民主主義、人権といった価値観よりも経済的利益や商取引を優先させるという「トランプ・ドクトリン」を強く印象付けるものでもある。

 大統領の一連の発言に議会やメディアなどから強い批判の声が上がった。米紙ワシントン・ポストの発行人兼最高経営責任者のフレッド・ライアン氏は同紙への寄稿で「米大統領の前に大金を積めば、殺人も許されるという明確で危険なメッセージを世界中の独裁者に送った」と指弾し、CIAの結論を覆す証拠を持っているなら、「速やかに公表するよう」迫った。実際、ペルシャ湾岸の君主国家などは大統領のメッセージを歓迎している。


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