米中央情報局(CIA)はこのほど、反政府サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害がムハンマド・サウジ皇太子の命令によるものとの結論を下した。事件はサウジ政府が容疑者の起訴を発表する一方、トランプ政権も関与した17人に制裁を発動するなど、両国が協調して幕引きを図る構えだが、CIAの結論は決着を急ぐトランプ政権に“待った”を掛けた格好だ。
皇太子実弟の駐米大使も暗躍
このCIAの結論は11月16日付のワシントン・ポスト紙が特ダネとして報じた。同紙によると、CIAは複数の情報からこの判断に達したが、その中の1つは皇太子の実弟のハリド駐米大使の電話の傍受による情報だ。ハリド大使は皇太子の指示を受けて、ワシントン近郊のバージニア州に住んでいたカショギ氏に電話していた。
大使はこの電話で、当時サウジ人妻との離婚を望んでいたカショギ氏に対し、離婚の手続きをするならトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館に行くよう勧め、身の安全を保証していた。カショギ氏が殺害される手はずになっていたことを大使が知っていたかどうかは不明だが、事件をめぐる謎の一端が明らかになった。
これまではカショギ氏がイスタンブールの総領事館に行ったのはフィアンセがトルコ人だったからと見られていたが、ハリド大使の助言により、イスタンブールに行くよう仕組まれていたことになる。同氏は9月28日に総領事館に行ったが、書類を整える時間が必要だとして10月2日に再訪するよう告げられた。サウジ側はこの間に、15人の暗殺部隊を編成してイスタンブールに送り込み、同氏を殺害した。
同紙の報道が示唆するシナリオは次のようなものだったろう。皇太子はサウジの他の有力王子らとの関係もあるカショギ氏が、ムハンマド体制を批判するのがなんとしても邪魔だった。しかし、暗殺や拉致に厳しい米国内で犯罪を実行するのは難しい。せっかく築いたトランプ政権との強固な関係を崩すわけにはいかない。同氏はサウジへの帰国の誘いに警戒して乗ってこない。
しかし、同氏は離婚問題で困っている。それを利用して米国から海外に引っ張り出すことはできないか。イスタンブールなら同氏のフィアンセの母国であり警戒心が緩むかもしれない。ハリド大使に指示して電話をかけさせ、誘い出そうと。
こうした線に沿って計画が進められたのではないか。CIAは今回のような大掛かりな計画がムハンマド皇太子の承認なしに実行することはできないと見ている。しかし、一方で、事件で皇太子の地位が揺らぐことはないだろう、との見通しも持っている。ワシントンの駐米サウジ大使館当局者はハリド大使がカショギ氏とトルコ訪問について話したことはない、と報道を否定した。