エルドアンの狙いは政敵の強制送還
早期の政治決着を図りたいトランプ政権にとって、もう一つの難題はサウジ非難の姿勢を強めているトルコのエルドアン大統領をどう説得し、軟着陸に同意させるかだ。エルドアン大統領はこれまで、「容疑者をトルコで裁く」「事件は計画的な殺害」「サウジの最高レベルが殺害命令」などムハンマド皇太子を標的にした発言を繰り返している。
エルドアン大統領は危機から政治的な利益を生み出す“名人”で、今回もサウジ非難を強める意図についてさまざまな憶測が出ていた。大方の見方としては、巨額な対外債務の解消に向け、「サウジに恩を売ってその値段をつり上げるため」というものだった。しかし、水面下でのサウジ側の提案を一蹴するなど大統領の真意が今一つ見えなかった。
しかし、ここにきてエルドアン大統領の狙いが鮮明になった。それは米ペンシルベニア州に在住する大統領の政敵のイスラム指導者ギュレン師の強制送還だ。大統領はギュレン師が2016年7月に起きたクーデター未遂事件の黒幕だったとして、米国に強制送還を要求してきたが、米側は応じてこなかった。両国関係冷却化の最大の要因だ。
だが、15日の米NBC放送によると、トランプ政権はギュレン師の強制送還を検討しており、これがトルコのサウジに対する圧力を弱めることになるとして、送還案が検討されている。すでに司法省が同師の滞在資格について調査している。同師は90年代から同州に居住し、永住権(グリーンカード)を取得している。
トランプ政権がエルドアン大統領を懐柔するため、ギュレン師を強制送還するようなことがあれば、猛烈な国際的非難が沸き上がるのは確実だ。しかし、エルドアン大統領の最終的な狙いが「事件の幕引きはギュレン師の強制送還と交換」である可能性は大きい。トランプ大統領は一段と難しい対応を迫られた格好だ。
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