反政府サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件で、トルコのエルドアン大統領は11月10日、殺害時の模様を録音したテープを英仏独の3カ国に渡したと明言した。米国の中央情報局(CIA)長官もすでに録音を聴いているが、動かぬ証拠を国際的に拡散することで、サウジの逃げ道をふさぐことが狙いと見られている。
米、数日内にサウジ制裁も
エルドアン大統領はこれまで、サウジが計画的に記者を殺害したことを明らかにしていたものの、録音テープの存在をはっきりさせたのは初めてだ。殺害の決定的な証拠ともいえるテープを米国に加え、欧州3カ国に渡したのは、事件から40日が経過してもサウジ側が捜査状況を公表せず、故意に遅らせているとの怒りが背景にある。
大統領はこのままでは事件がうやむやにされかねないとして、サウジ批判を強めている英仏独にもテープを渡し、サウジに対する国際包囲網の圧力で公表させようという思惑があると見られている。大統領は先週末、殺害命令がサウジの最高レベルから出たものと言明し、事件との関与が取りざたされているムハンマド皇太子が“黒幕”であることを示唆した。
しかし一方で、大統領はサルマン国王について「国王が殺害を命じたとは思えない」とも述べており、皇太子に対する批判とは一線を画する姿勢を取っている。この点についてベイルートの消息筋は「エルドアン一流のやり方だ。“国王は悪くない。悪いのはムハンマドだ”として両者を分断、一時的にせよ国王に皇太子を切らせようとしているのではないか」と指摘している。
ムハンマド皇太子はことし、トルコをイランやイスラム原理主義者とともに“悪のトライアングル”と呼び、エルドアン大統領の反発を買い、両者の仲は冷え切っていた。大統領にとって理想的なのは、皇太子抜きのサウジとの関係を維持することだ。そこには、邪魔者を排除して石油大国との経済関係を維持したいとの計算がある。
トランプ米大統領もすでに「史上最悪のもみ消し」などとサウジの対応を批判、皇太子を擁護してきた姿勢から距離を置いている。米軍がイエメンの内戦に軍事介入したサウジ空軍に対する給油を停止したのもサウジへの圧力の一環だろう。米メディアは数日内にもサウジへの制裁が発動されると報じており、ムハンマド皇太子の苦境が一段と深まるのは必至だ。