2024年4月16日(火)

中東を読み解く

2018年11月12日

暴露され始めた陰謀

 こうした中、米紙ニューヨーク・タイムズは11日、事件の首謀者の1人と見られ、解任されたムハンマド皇太子の側近アハメド・アシリ将軍がカショギ氏殺害事件の1年以上前からイラン高官の暗殺やイランの経済マヒ作戦を極秘に協議していた、と暴露した。

 報道によると、皇太子とも親交があるレバノン系米国人ジョージ・ナデル氏とイスラエル人のジョエル・ザメル氏の2人がこの作戦をアシリ将軍らに売り込んだ。具体的には、ナデル氏は17年3月にリヤドで開かれた会合で、民間の情報工作員を使ってイラン経済や社会を混乱させる20億ドルに上る計画を将軍らに提案した。

 席上、アシリ将軍の側近がイラン革命防衛隊のエリート軍団「コッズ部隊」司令官カシム・スレイマニ将軍らイラン高官の暗殺ができるのかどうかをナデル氏らに質した。同氏らは弁護士と協議した上、ロンドンに本拠を置く元英特殊部隊員が経営する会社を紹介したという。

 スレイマニ将軍はイランの対外作戦を取り仕切る大物で、イランを宿敵視するサウジにとっては目の上のコブ的存在。アシリ将軍はムハンマド王子の皇太子昇格とともに、サウジ治安機関「総情報本部」の副長官に起用され、イエメンへの軍事介入では連日戦況について会見するなどサウジの顔になった。

 このリヤド会合に先立ち、トランプ大統領が当選した後の2016年、アシリ将軍とナデル、ザメル両氏はニューヨークの「マンダリン・オリエンタル・ホテル」の最上階スイートで密会した。この際、将軍らは対イラン作戦が相当挑発的なものだとして、トランプ次期政権(当時)からの同意を得ることを求めたという。

 両氏はトランプ政権発足後、何度もホワイトハウス当局者と会い、対イラン作戦について協議した。問題はこうした陰謀をムハンマド皇太子が知っていたかどうかだ。アシリ将軍が皇太子の側近であったこと、またナデル氏が皇太子と会ったのと同じ時期に同将軍とも密談していることなどを考慮すると、皇太子が全く知らなかったとするのは合理的ではないだろう。

 サウジによる反体制派の弾圧や拉致、対イラン秘密作戦は長年にわたり、国家ぐるみで組織的に行われていたことが次第に鮮明になっており、こうした工作に関わってきたと見られるムハンマド皇太子をサルマン国王が最後まで守り抜くのかが焦点となってきた。

  
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