これまでに6万人が死亡し、840万人が飢餓の危機にさらされているイエメン戦争。「世界最悪の人道危機」(国連)と言われながら、サウジアラビアと同国を支配する武装組織フーシ派の戦いは今年も終結する見通しは小さい。戦争の裏側では傭兵や、過激派と手を組む部族長ら魑魅魍魎が跋扈し、希望のない新年に市民には絶望の色が濃い。
スーダンの“少年兵輸出”
シーア派の一派であるフーシは元々、イエメン北部のサウジ国境近くが根城だったが、2011年のアラブの春の混乱を利用して台頭。2015年、ハディ政権を首都サヌアから追放し、同国を掌握した。サウジはこれに危機感募らせた。フーシの背後で宿敵のイランが糸を引いているとの疑念を深めたためで、アラブ首長国連邦(UAE)と図り、南部アデンに逃れた傀儡のハディ政権を支援して軍事介入、フーシへの空爆を開始した。
サウジは米国の支援を受け、フーシへの攻撃を激化させる一方で、イエメンの国境や海上を封鎖した。これにより、ただでさえ最貧国のイエメンは物資不足に陥り飢餓が蔓延。上下水道などのインフラが破壊されたため、衛生状態が極度に悪化し、コレラが大発生した。
サウジなどの空爆は無差別状態と化し、結婚式や葬式、市場、病院、学校なども爆撃を受け、これまでに民間人約5000人が犠牲になった。米紙によると、誤爆が多発するのは、サウジ機のパイロットが撃墜されることを恐れて高高度を飛行するため、爆撃の精度が下がっているからだという。
サウジの爆撃に対し、フーシはミサイル攻撃で反撃、リヤドの空港などに撃ち込んだ。地上戦も紅海沿いの港湾都市ホデイダで激戦が続いた。サウジはこうした地上戦に、紅海を挟んだ対岸のアフリカ・スーダンで徴募した傭兵を送り込んだ。ニューヨーク・タイムズの報道によると、その数は4年間で1万4000人にも上り、多数の少年兵が含まれている。
傭兵はかつての「ダルフール紛争」で家や畑を失った貧困層出身の少年が多いが、レイプや殺人などの蛮行で知られるならず者組織の構成員もいる。しかし、サウジは傭兵を送り込む一方で、自国の軍部隊は派遣していない。サウジ軍の指揮官も前線には来ず、離れたところから命令を下している、という。これはサウジ人の損害を回避するためだ。
傭兵の少年たちは14歳から17歳程度。徴募に応じると、支度金が支給される上、月500ドル弱の給料が支払われる。加えて半年に1回のボーナスや戦闘手当も支払われる。戦闘経験のある戦闘員には月給も上積みされる、という。サウジは給料などを直接スーダンの銀行に振り込んでおり、スーダンにとっては貴重な外貨稼ぎの手段となっているが、戦闘によるスーダン人の死者もかなりの数に上っている。
スーダン人の1人は同紙に対し「商品のように少年兵らが輸出されている」と批判、専門家の1人も「貧困に付け入って札束で戦闘員を買っている」とサウジのやり方に批判的だ。だが、サウジ軍スポークスマンは「少年兵がいるというのは作り話」と否定している。