2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2011年10月3日

 一方、水道水から放射性物質が検出されると、ペットボトルの買占めが起こり、一気に品薄となりました。このように、求めているもの、特に代替のきかないものが購入できない、というのはまさにパニック状態だったと思われます。「この先どうなるか」「いつからどこで買えるのか」など、今後の見通しが情報発信されなかったことが問題でした。

 このように、政府の情報の出し方については問題もありましたが、測定された放射線量などの確かな情報だけを発信し、会見で一部記者の挑発的なあるいは的外れな質問に乗せられて憶測でモノを言うようなことはなかったという点に関しては、個人的には評価できる部分もあると思います。しかし、原発事故の経緯が明らかになるにつれて、政府に対する信頼がなくなっていったのは事実です。どれだけ科学的根拠に基づいている情報だと言っても、発信者が信頼の置けない人物であれば、一般の人は信用しないのが現実です。

「リスクの総合判断」の難しさ

――専門家の中でも、放射線の影響についてかなり見解が分かれています。基本的に「専門家」は信頼が置けると見なされると思いますが、それでは誰を信じて良いのか迷ってしまいます。

中谷内教授:確かに、専門家の中での意見分布が9対1であったり、科学的根拠に乏しかったりしても、メディアで両論併記されれば一般の人に与える影響は同等です。山ほどある情報の中から、ともかく安心させようとしたり、逆に不安を煽ったりする科学的には怪しい情報と妥当な根拠に基づく情報を見極めなければならないのですが、それにはある程度の知識が必要とされます。つまり、一般の人にはなかなか難しいということになります。

 また、「色々なリスクを総合的に判断する」ということもよく言われます。理想的ではありますが、一般の人たちがそう簡単にできるとは思えません。たとえば、水道水から放射性ヨウ素が検出された際に、「水道水を避けてペットボトルの水を買占めている人がたくさんいるが、平常時では水道法と食品安全法を比較すると、水道水の方が水質基準や項目数が多くより厳しい」と、ペットボトルならばゼロリスクというわけではないと言う専門家の意見もありました。それは事実であり、確かに水という同じカテゴリーでの比較ならば理解が容易かもしれません。しかし、ある地点にいて、そこの放射線を避けるべきかどうかを判断するときに、移動に伴う経済的なリスクや事故のリスクなどを総合して、どうするべきかを判断するのは、個人では難しいと思われます。

――それでも、私たちはリスクと向き合って判断していかなければなりません。どうするべきでしょうか。

中谷内教授:怪しげな情報を見極めたり、リスクを総合判断したりすることは大変困難です。それでも、月並みではありますが、複数の新聞を読んだりして専門家の色々な意見に触れることで、自分の中にある程度の「相場観」ができると思います。


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