観客のもどかしさも解消
そもそも、数ある採点競技からなぜ体操に白羽の矢を立てたのか?
「体操はテレビで見るスポーツランキングで5位ながら、会場で応援したい競技としては19位。しかし、オリンピックで『印象に残った競技は』と問うと1位の人気競技。しかも、これまでに日本の体操は五輪で98個のメダルを獲得し、全競技中1位。もっと楽しめていいはずだ」
開発スタッフは体操の魅力の奥深さを探るため観戦に興じたが、「テレビの解説が会場にはなく、『現場で技を見極めるのって難しい』と感じた」。
世界最高峰の選手による演技が観客に伝わっていないのでは? ここに世界初のテクノロジー開発の原点があり、挑戦が始まった。
レーザーセンサーで得た情報は将来的には観客を楽しませることもできる。会場内のリプレイ映像と一緒に、選手がどんな技に挑戦し、どれほどの難易度であるかを解説してくれる。予想点数も示され、観客は臨場感を味わいながら世界最高峰の技を堪能できるのだ。
「AIはエンパワーメントとして人に寄り添い、より良い経験をさせたり、能力を高めたりするテクノロジーなんだと、我々は証明したかった」(藤原氏)。生身の身体を使ってやっている領域でテクノロジーを融合させていけば、人間がより成長していけるのではないかと考えたという。
国際体操連盟も公認済みのテクノロジーだが、10月4日にドイツ・シュツットガルトで開幕する世界選手権にて、つり輪、あん馬、それに男女の跳馬で正式にお目見えする。当然、2020年の東京五輪ではより多くの種目での〝活躍〟を目指している。
「表現力や芸術性での採点はまだAIでは難しく、20年は人間とAIの共存だが、将来的には……」(藤原氏)
ほかにも、柔道やレスリングの技判定も可能になっていくるかもしれないという。
スポーツで最も大切な精神「フェアネス」が実現されたら、スポーツ観戦の醍醐味(だいごみ)をさらに味わえるだろう。何よりも、選手として〝情の絡まない〟フェアな判定が望まれるというのだ。
■再考 働き方改革
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