関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働をめぐり、野田政権が迷走を続けている。前提として、電力は足りているのか、いないのか。東京電力への批判とは切り離して、日本の直面するリスクを冷静に把握しておきたい。
原子力発電所の再稼働をめぐって、「実際には、電力供給面でのリスクなど存在しない」、「リスクを煽るのは原発を再稼働させたいがための陰謀だ」、「そもそも東京電力による昨年の計画停電自体が、同様の陰謀だった」、などの意見がある。これらの見解は間違っており、電力供給リスクは実在する。
東京電力・福島第一原発事故以降、多くの国民は節電に積極的に取り組んでおり、大きな成果をあげている。節電自体は大切であり、さらに取り組みを強める必要がある。しかし、家庭で3割節電できたとしても、原発をなくせるとは限らない。なぜなら、わが国の電力市場で家庭用需要は約3分の1を占めるに過ぎず、残り3分の2を占める産業用需要や業務用需要では、節電はそれほど容易ではないからだ。
リスクがあるだけで進む産業空洞化
福島第一原発の事故が起きる以前から、日本では電気料金が高かった。そのため、産業用需要や業務用需要の分野ではすでに節電が進んでいた。
とくに、産業用需要の分野では、今夏にたとえ停電が回避されたとしても、電力供給不安が存在するだけで、電力を大量に消費する工程、半導体を製造するクリーンルーム、常時温度調整を必要とするバイオ工程、コンピュータで制御された工程等々を有する工場の日本での操業が、リスクマネジメント上、困難になる。これらの工場は、高付加価値製品を製造している場合が多く、日本経済の文字通りの「心臓部」に当たる。それらが海外移転することによって生じる産業空洞化は、「日本沈没」に直結するほどの破壊力をもつ。
その影響は、現存する工場の海外移転だけにとどまらない。もともと国内に新増設する予定だった工場を、海外工場建設に置き換える投資計画の変更もあいついでいる。むしろ、このような「機会損失」の方が、日本経済により大きな打撃を与えていると言えそうである。
ブラックアウト寸前の事態も
産業空洞化につながるような、明らかな電力供給不安が、すでに3回起きている。
昨年、東京電力が行った計画停電4日目の3月17日の朝方に、ブラックアウト寸前の最大の危機が訪れた。当時の東京電力の供給力は、他社からの融通分も含めて3350万kW。一方、同日午前9~10時の最大需要は3330万kWに達し、予備率わずか0.6%。大停電が起きてもおかしくない切迫した状況が、現実に発生した。この日は、海江田万里経産相(当時)が緊急記者会見を開いて大規模停電回避のための節電を呼びかけ、それにこたえて電車の運転本数が夕方から削減されるなどして混乱した。
昨夏においては、豪雨の影響で多くの水力発電所の運転が停止した東北電力の管内で、8月上旬に危機が発生した。東北電力自前の予備率は、5日はマイナス1.5%、8日はマイナス7.5%、9日はマイナス9.1%にまで落ち込み、他社からの融通を受けて、5日は3.6%、8日は3.9%、9日は4.6%の予備率をかろうじて確保した。東北電力自前の予備率は、昨年8月を通じて9日間にわたって安定供給上の下限とされる3%を下回り、他社融通による綱渡りに失敗すれば、計画停電のおそれもあった。8月上旬の東北電力への電力融通では東京電力が中心的な役割を果たしたが、当時は、東京電力の柏崎刈羽原発の5、6、7号機が稼働中であった。