今冬においても、寒波の影響で、2月2日夕方に四国電力管内と九州電力管内で予備率が3%前後になった。四国電力の場合には、最大電力が522万kWに達し、冬ピークとしては歴代最高記録を更新した。その翌日の2月3日未明には、出力229.5万kWの九州電力・新大分火力発電所がトラブルで運転を停止した。もし、この運転停止が9時間前に起きていたら、九州電力管内でブラックアウトが発生していたかもしれない。
この新大分火力発電所のトラブルは、けっして偶然の出来事ではない。原子力発電所の稼働が次々と停止するなかで、代役を担うことになった全国各地の火力発電所では、設備の酷使が続いている。さまざまな特別措置を講じて定期検査を引き延ばし、目一杯の運転が毎日毎日繰り返される。各地の火力発電所を回ると、くたくたに疲れきりながらも奮闘する運転員の姿を、どこでも目にすることができる。
このように電力供給リスクは、はっきりと実在する。そのリスクを、火力発電所の現場の疲弊が高めている構図だ。昨年の7~8月だけで、短期のものを含めれば、全国で17カ所の火力発電所が計画外の運転停止を経験した。電力供給リスクは、「今そこにある危機」なのである。
電力供給リスクには、もう一つの側面がある。それは、原発停止による火力シフトの進行が燃料費負担を増大させ、電気料金値上げを招くことだ。東京電力以外の電力会社の収支も苦しくなっており、電気料金値上げがこれから数年のあいだに実施される可能性は、十分にある。
原発再稼働の条件とは
実在する電力供給リスクを取り除くためには、定期検査あけ原発を再稼働させることが必要である。ただし、福島第一原発事故後の日本では、必要性を説くだけでは原発は動かないという、冷厳な現実が存在する。
原発を再稼働させるためには、必要性を説くだけでは不十分で、危険性を最小化するきちんとした手立てを講じなければならない。
定期検査あけ原発の運転再開の前提条件とすべきなのは、日本最大の原発立地県である福井県が提唱しているように、ストレステストではなく、福島第一原発事故の教訓を盛り込んだ新しい安全基準である。原発再稼働のためには、国がただちに、原発の地元住民と立地県知事が納得できるような、厳格でわかりやすい安全基準を明示する必要がある。その中身は、過酷事故への対応を前提としたうえで、
(1)立地地域の有史以来最大の地震・津波を想定し、それに耐えうるものとする(最大限基準)
(2)地震学・津波学等の世界でより厳しい新たな知見が得られた場合には、それを想定へ反映させる(更新基準)
という2点を骨格とすべきであろう。
福井県は、完全な形の安全基準をすぐに求めているわけではない。方向性を明示したうえで、暫定的な基準を示せと言っているのだ。国は、ただちに暫定的な安全基準を明示し、原発再稼動に道をひらくべきだ。
※編集部注:本記事はWEDGE4月号発売時点(3月20日)での記事です。
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