2024年12月23日(月)

子どもは変わる 大人も変わる 【WEB特別版】

2012年7月3日

 子ども館に辿り着いたAは当初、私をはじめ、子ども館のスタッフら、我々大人たちに向ける不信の心持ちを引き連れ、話しかけても判然とせず、心を開いてくれることは極めて表面的でした。この背景には中学生というプライドもあったのでしょう。他者の助言を素直に聞き容れることは至難でした。その一例として、根拠は不明ですが「自分は27歳まで生きられたらいい」という捨てゼリフを言うこともありました。

 しかし、家族から「勉強せよ」と急かされていた日々から脱し、Aはひたすらマイペースで呼吸し始めました。子ども館の、不登校に悩む同年代、あるいは小学生や中学生の仲間たちは、Aを決して仲間外れにしようとしません。むしろ、同じ悩みを抱えている者同士にこそわかりあえる、暗黙の「共通言語」や「雰囲気」が存在していたのでしょう。

一つずつ、少しずつ積み重ねていく大切さ

 5年間ほどひきこもっていたA。世の中と関わらず、人間不信、大人不信のるつぼで呼吸していたAは、「一つずつ、少しずつ積み重ねていく」ということが苦手でした。

 こうした事情を勘案し、Aには個別指導のスタイルで、積み重ねが必須である英語と数学の授業を始めました。高校生になった今でも、Aが「わかった」と納得するまでこのスタイルが続いています。

 また、大学進学を希望するまで意欲を取り戻したAが学習習慣を身につけていく土台となったのが、生活習慣の確立です。朝きちんと起きる。3食しっかり食べる。身体を動かす――つまり、人間が人間らしく生きていくための基礎的な営みを大切にしていくことです。

 こうした中で、仲間や子ども館のスタッフからの励ましや助言、そして、「AはAらしく」と、少しずつ自分が認められることで自己肯定感を膨らませた日々を過ごし、その結果、仲間も、大人も、信じることができるようになったのです。

 このプロセスは、子ども館の仲間やスタッフたちから、Aが人間らしい人間になることを「真似び」、不登校になる前の、本来の自分に戻るための期間だったといっても過言ではありません。その結果、Aはふたたび生きる意欲を取り戻し、人間らしい人間になるために、学ぶ意欲がふつふつとわいてきたのでしょう。それが「高校にも行く」という発言に表れているだけでなく、「大学で心理学を学びたい」という発言にも結び付いたのだと思います。 

 Aの変貌ぶりは、青年の、否、人間の本性を大人が信じて待ち、じっくりと受け止めてあげれば、自ら生きていく意欲に点火するものであることを示してくれていると言えるでしょう。

子どもは大人のペースで生きられるとは限らない

 翻って現代社会の子どもたちは、どのような環境下で学んでいるのでしょうか。


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