2023年1月30日(月)

BBC News

2023年1月26日

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バーバラ・プレット・アッシャー、国務省担当特派員

アメリカは25日、米軍の主力戦車「M1エイブラムス」をウクライナに供与すると発表した。この戦車によりウクライナの軍事力は大幅にアップグレードされる。ただ、ロシアとの戦争の次なる局面に何らかの変化をもたらすことはなさそうだ。

米国防総省は長らく、「M1エイブラムス」はウクライナの戦場での運用には適さないと主張してきた。ところが突如その主張を一転させ、ウクライナに同戦車を送ることを決定した。

この発表が、戦車供与をめぐる他国の判断に影響をもたらしている。

「(アメリカの発表は)ドイツ製の戦車『レオパルト2』を(ウクライナに)送ることをドイツに決断させ、レオパルト戦車を保有する他国が供与するのを承認することにもつながった」と、米政府の元ウクライナ特使カート・ヴォルカー氏はBBCに語った。

西側諸国は今後6〜8週間でウクライナの装甲車能力を増強し、今春に予想されるロシア軍の攻撃に備えられるよう支援したい考えだ。

だが、M1エイブラムスを戦地に輸送し、ウクライナ兵が同戦車を扱えるよう訓練を行うには、それよりもずっと長い時間がかかるだろう。一方で、レオパルトは比較的早い配備が可能で、操作も簡単だ。

アメリカとドイツの当局者は、この2つの問題を公には関連付けてはいなかった。しかし両国は、同じ日に戦車供与を発表するよう調整。西側の同盟国間で拡大していた論争を解決したかたちとなった。

戦車供与が焦点に

開戦当初から、アメリカのバイデン政権とその同盟国はロシアを刺激してエスカレーションを招かないよう、兵器の供与を慎重に調整してきた。

ところがウクライナが一連の戦果を挙げたのを受け、各国はタブーを破るようになった。そしてロシアが再び攻勢をかけてくるとの見通しから、ウクライナ東部の開けた地形で戦うために特に必要な戦車に焦点が移っている。

ドイツ政府は一部の同盟国から、ドイツがレオパルト2を供与するか、他国からの供与を承認するよう圧力を受けるようになった。欧州各地には約2000台のレオパルト2が配備されている。

ドイツは、ロシアに対抗するための戦車を西側諸国で唯一ウクライナに配備する国とみなされることを嫌った。イギリス政府も英陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」14台を供与すると表明したが、十分な数とはいえないものだった。

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エイブラムスの供与を決めた背景

数日前まで、米国防総省の高官はM1エイブラムスの供与は選択肢にないと発言していた。

このハイテク戦車は世界トップクラスだが、高価なうえに取り扱いが複雑で、メンテナンスも難しい。広範な訓練も必要となる。

その点についてはいまも変わっていない。

しかし、ヨーロッパで生じた軋轢(あつれき)への対応については米政権内部で議論がなされ、ここ数週間はジョー・バイデン米大統領とオラフ・ショルツ独首相が何度も電話で協議した。

米政府高官の1人は、バイデン氏は大西洋諸国の結束に重点を置いていると語った。

「今回の決定は、我々がいかに同盟国やパートナーと一体化し、すべてのことを協調して行っているかを示すためのものだ」と、米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー報道官は述べた。

「ドイツによる短期的コミットメントと相まって、エイブラムス戦車は長期的コミットメントを示している」と、ある米政府関係者は述べた。

戦地に届くのは何カ月も先か

2003年から2006年にかけてアメリカの駐ウクライナ大使を務めたジョン・ハーブスト氏は、この長期的コミットメントについてより現実的な見方を示している。

「(米)政権は必ずしも戦車(の供与)に熱心ではなかった」

「しかし、政権は議論の流れを目の当たりにし、世間の認識を知った。ドイツを説得するために誠実に努力したのだと思う」

「ただ、それを実現するにはエイブラムスについて同意する必要があったので、そうした。米政権はそれを望んでいなかったので、エイブラムスは言ってみれば、ものすごく遅いウクライナ行きの船に乗っている状況だ」

いずれにせよ、エイブラムスの配備には、その複雑さと調達方法を考えると長い時間がかかるだろう。同戦車は国防総省の在庫から送られるのではなく、民間業者から購入することになる。ウクライナに届くには何カ月か、もしかしたら1年くらい、かかるかもしれない。

こうした中、複数の軍事アナリストは、ドイツのレオパルトが投入されることでウクライナの攻撃能力は大幅に高まるものの、解決のための特効薬にはならないだろうと指摘。歩兵隊や砲兵隊とともに統合軍に組み込む必要があるとしている。

このことは、今回の供与が戦闘での形勢を逆転するゲームチェンジャーになり得るかどうかの重要な要素となるだろう。

また、兵器に関してゴールが再び変わるかどうかの指標にもなるかもしれない。ゆくゆくは長距離ミサイルや戦闘機などの供与も必要だと判断することになるかもしれない。

(英語記事  What difference will the tanks for Ukraine make?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-64408689


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