多くの国民が国土の3分の2が森林であることを意識しないで、見かけは安穏な都市生活を享受している現代である。国有の森林だってあるだろう程度の認識はあっても、その実態について関心があろうはずがない。
しかし、かつては国民的関心を受けた時代もあったのだ。昭和30年代、いわゆる高度経済成長期の入口に差しかかったころ、木材需要の急増と木材価格の高騰によって、世論は国有林に対して木材増産迫っていた。そしてその木材増産がもたらした副作用ともいうべき大規模な森林の皆伐が、自然保護を訴える国民的運動の標的となり、悪役として有名を馳せた。
もっとも良くも悪くも脚光を浴びたことは、国有林にとって幸せなことだった。とてつもない科学技術の進化によって見果てぬ経済成長を追い求める現在、国有林など身の置き所もなく、世間から忘れ去られている。
しかし、わが国の森林の30%、国土の20%、760万ヘクタール(ha)を占める国有林の潜在的価値には金銭的尺度では測りえないものがある。しかも、その価値が、国民的理解もなく、政治的議論もなく蝕まれていくとしたら、禍根を千載に残すであろう。そうした事態を避けるために私たちがなすべきことを考えてみたい。
国有林の分布の偏りとその歴史
国有林は、江戸時代に各藩が所有していた藩有林や幕府の直轄地である天領の森林を引き継いだものが多い。しかし、主に西日本では国に引き継がなかった藩も多く、図1のように中部地方以北に偏在している。
戦前は、農林省山林局所管の内地国有林、皇室財産の御料林、内務省所管の北海道国有林だったものが、1947年(昭和22年)に1つに統合されて農林省山林局(現在の農林水産省林野庁)所管の国有林となっている。
それと同時に一般会計(財源は税金)に頼らず民間企業的な効率的経営を行うために特別会計制度(独立採算制)を導入し、山林局長などの主要ポストは事務系官僚に代わって、林業技術に関する専門教育を受けた林学出身の技術系官僚が務めるようになった。