機会があって先日、花粉発生源対策が実行された現場を見た。某地方自治体が実施した箇所である。その手法は、スギ・ヒノキ人工林の皆伐と花粉の少ないスギの植栽であって、林野庁が実施しようとしている花粉発生源対策の先行事例とみてよいだろう。
写真1を見ていただこう。今や国民のほぼ半数が花粉症と言われており、花粉症の方には誠に申し訳ない光景であり、症状のない筆者でさえ気分的にはむずがゆい。
50年ほど前に初めて見た時は、山火事かと思った。スギ花粉は写真中央の少し左よりのスギの高木から発生してる。1本のスギからこれだけ発生するのだから凄い。春先は霞みがかった天気がふつうだけども、花粉のせいで近景もぼやけて見える。
筆者は、Wedge ONLINEで昨年9月に3回にわたって森林・林業の面から花粉発生源対策について問題点を指摘したが、今回それらの観点から現場の実態を検証してみようと思う。
皆伐による国土保全への危惧
花粉発生源対策で一番危惧されるのが皆伐という伐採方法にある。写真2のように立木がすべて伐採されて、林地が丸裸の状態になる。
横筋に見れるのは地拵(じこしらえ)によってできた置き筋である。地拵とは伐採地に搬出されずに残された末木枝条(すえきしじょう、梢や枝)や低木を整理する作業で、筋状に積むことが多い。その後置き筋の間に苗木を植えていく。
写真2の現場は丁寧な地拵が行われており、置き筋は降雨時に土壌の流亡を緩和するが、それでも中央下部に若干流亡跡(茶色に剥げた部分)が見られる。
スギ・ヒノキのような針葉樹の場合、伐採されると地中に残された根っこも枯れてしまう。林地の土壌を緊縛していた根が枯れると、土壌は雨水によって流亡しやすくなる。
伐採直後はまだ枯れた根には力が残っているが、しばらくするとその力を失う。しかし、再造林や天然更新によって後継樹が育ってくると、それらの根によって緊縛力が回復する。伐採後15年ぐらいで後継樹の緊縛力が前生樹の枯れた根のそれを上回るようになる。
成林した森林では、隣接する樹木の根系同士が絡み合って、いわば絨毯のようになって林地を保護しているのだが、皆伐はこの絨毯を剥がしたようなものである。しかし、後継樹が成長して樹冠(樹木の枝葉が集まった部分)が接するようになると、根系も接触して絡み合って絨毯が復活する。それまでの期間が皆伐された林地にとってもっとも危険な時期である。