信頼性の低い少花粉スギ
林野庁の花粉発生源対策では、スギを皆伐した後に少花粉スギの苗木を植えるという。林野庁がなぜスギの再造林に固執するのかがわからない。
少花粉スギを植えた再造林地に行ってみると、何とも不思議な光景に出くわした。樹高2mぐらいだからおそらく5年生程度のスギだが、よく見ると枝先にもう雄花がいっぱいついている。ちょっと揺するとボワッと花粉が湧きだした。
驚いたのは写真5の木だった。雄花がたわわに着いて、その重みで大きくたわんでいた。このような倒れかかったスギもあちこちにあった。
将来これらの木が大きくなったらいったいどうなるのだろう。これが本当に少花粉スギといえるのだろうか。
この原因として、品種開発の失敗や育種・育苗段階での従来品種の混入が考えられる。長期間かかる樹木の育種では、少花粉スギはまだ開発段階で50年後に本当に花粉の飛散が少ないのか不明である。
そのような怪しい品種を拙速に大規模に植えて大丈夫なのだろうか。ここでも花粉の多いスギを植えつづけた過去の失敗に学んでいない。
種子や苗木を生産する過程でも多花粉スギが混入する可能性がある。工場生産でなく自然の中に採種園や苗畑があるのだから、このようなリスクを完全に排除することなど不可能である。現場は、林野庁の机上で考えるようにはいかないのだ。
筆者はかつて林野庁で松くい虫防除の担当をしていた。薬剤散布や被害木の伐倒・破砕・焼却などどれも実験では効果がある。しかし、それを現場に持ち込んでも、薬は撒(ま)きむらが生じ、伐倒すれば梢や枝が飛散してすべてを集めて破砕・焼却することは不可能で、松くい虫を全滅させることはできず、松枯れは今でも続いている。
少花粉スギ等については、林野庁も保険をかけていて「花粉の少ない苗木の花粉量は通常種の約2割」としている。花粉が2割に減ったところで、花粉症患者が2割に減る確証もない。
筆者が主張するように、再造林をやめて天然更新にすれば、スギ花粉は0割である。なぜ林野庁はそうしないのか。
リスク分散できる天然更新
写真6の個所は、斜面上部の緩傾斜地にはスギを再造林しているが、斜面下部の急傾斜地は植栽していないようで落葉広葉樹が天然更新している。葉が落ちているので樹種は分からなかった。担当者の話では、全面的に再造林しているということで、確かに地拵のあともあるようだ。急斜面のところだけシカが食うだろうか。ちょっと理解に苦しむ光景だった。