<コラム紹介(編集部より)>
アメリカでもっとも権威があるといわれる、ニューヨークタイムズ紙の書評欄を中心に、有名紙のベストセラーランキングから、時々の旬な一冊を取り上げ、アメリカの政治、経済、文化の実相を探ります。ぜひご期待ください。
■今回の一冊■
HOUSE OF CARDS
著者William D. Cohan, 出版社DOUBLEDAY, $27.95
アメリカのウォール街で5番目に大きかった証券会社ベア・スターンズが実質的に破綻してから1年余がたった。その後も、リーマン・ブラザーズの破綻など事態がめまぐるしく展開したから、ベア・スターンズの一件もずいぶん昔のように思える。しかし、ウォール街で投資銀行マンとして活躍したこともある筆者の手になる本書を一読すると、世界の金融システムがあの時に直面した危機の実像に、今さらのように戦慄を覚える。
The first out gets his money back
~逃げるが勝ち
4週連続ベスト5
本書はベア・スターンズが2008年3月にJPモルガン・チェースへの身売りに追い込まれるまでの内幕を詳細に伝えるノンフィクションだ。
3部構成のまず第1部 How it happened: Ten Days in March では、欧州のUBSがアメリカの住宅ローン債権への投資で多額の損失を計上したのをきっかけに、時価会計が引き起こす連鎖反応で世界のマーケットに不安が広がり、市場の疑心暗鬼の的となったベア・スターンズが取り付け騒ぎにあう様子を、関係者の証言をもとに再現する。
信用不安が高まると、金融機関はいっせいにベア・スターンズとの資金の貸し借りから手を引く。資金の出し手である金融機関の担当者の次のコメントは、レポ取引と呼ばれる金融機関の間での資金取引の非情さを物語り印象的だ。
The last man standing gains nothing; the first out gets his money back. (P77)
「最後まで踏みとどまっても得るものはない、一番先に逃げるやつがカネを取り戻せる」というわけだ。