リスクを好む個性的な経営者たち
日本の読者にとっては、1923年に創業したベア・スターンズの歴史をひもとく第2部 Why it happened: Eighty-five Years から読み始めた方が、登場人物のキャラクターがよく分かり楽しめるかもしれない。リスクを好み場当たり的な経営に終始する特異な企業文化をもたらした3人のエゴの強い経営者を中心に歴史を語る。
1933年に入社したサイ・ルイスは、靴屋で働いていた時に「死んだ男に靴を2足売りつけたことがある」というのが自慢。第2次世界大戦下で暴落した鉄道会社の社債を買い集めて利益を稼ぎ出すなどして会社のトップにのぼりつめる。
ルイスから1970年代後半に経営を引き継いだアラン・グリーンバーグは利益に貪欲な一方、業績がよくても徹底したコストカットをした。紙を束ねるクリップの購入を止め、他社から送られてくる書類についてくるクリップを活用するよう社内に呼びかけたエピソードは秀逸だ。
90年代前半に最高経営責任者(CEO)の座をグリーンバーグから引き継ぐジミー・ケインもまた、トランプゲームのブリッジの全米大会で優勝するほどの腕を持つ個性的な人物で、権力を完全には手放したがらないグリーンバーグとの確執が経営に影を落とす。ケインは会社が危機にあったときにブリッジ大会に参加していたと、後に批判の的にもなる。
第3部 The End of the Second Gilded Age では再び現代に話が戻る。アメリカでは住宅バブルが膨らみ、ベア・スターンズは得意の証券化商品で業績を伸ばし、2007年1月17日に株価は172ドルの過去最高値をつける。それからわずか1年余りで、1株10ドルでJPモルガン・チェースに買収されることになるとはだれも想像できなかった。
07年夏に突然、欧州で銀行間取引市場が機能麻痺に陥り、欧米の中央銀行が異例の資金供給に動く異常事態が起こり、ベア・スターンズの経営にも暗雲が立ち込める。他の金融機関は大規模な資本調達に動くなか、ベア・スターンズの経営トップは「資本は十分」としてなかなか動かない。こうした時期、日本の銀行がベア・スターンズに出資する可能性があった事実を本書は明かしている。