イギリスの裁判所は28日、極右活動家のトミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)被告に対し、シリア難民に関する偽の主張を禁じる裁判所命令に違反したとして、法廷侮辱罪で禁錮1年6カ月の実刑判決を言い渡した。
ヤクスリー=レノン被告は、ウーリッチ刑事法院での審理中、2021年に高等法院が下した命令への違反10件を認めた。
法務次官の代理弁護人は、同被告が法の支配を「軽視している」と非難した。
ジョンソン裁判長は判決を下すにあたり、同被告が虚偽主張の繰り返しを禁じる命令に違反したのは、「偶然や過失によるもの、あるいは単に無謀だったからではない」とし、禁錮刑に該当する基準は「十分に超えた」と述べた。
この判決の発端は、2018年10月までさかのぼる。
当時、ウエスト・ヨークシャー在住でシリア出身のジャマル・ヒジャジさんが、学校で別の10代若者に襲撃される様子を映した動画がインターネットで拡散された。
ヤクスリー=レノン被告はこの件について、自分の独自調査から、ヒジャジさんは暴力的な人物だとわかったという虚偽の主張を、100万人のフォロワーがいる自身のフェイスブックアカウントに投稿した。
同被告による動画は広く共有され、ヒジャジさんとその家族は殺害予告を受け取るなどの被害を受けた。
その3年後、ヤクスリー=レノン被告はヒジャジさんに対する名誉毀損で有罪となり、損害賠償金10万ポンドの支払いを命じられた。
裁判所はこの時、虚偽主張の繰り返しを禁止する命令を同被告に下した。
しかしヤクスリー=レノン被告は2023年2月、再び偽の主張を繰り返すようになり、自分は国家によって「黙らされた」のだと主張する映画をインターネットに投稿した。
この映画は少なくとも4700万回、視聴されたとみられている。
今年7月にはロンドンのトラファルガー広場で、数千人の支持者にこの映画を上映し、自分は黙ったりしないと述べた。そしてその翌日、イギリスから出国した。
刑事法院のジョンソン裁判長は、被告が訴訟手続き開始後に偽の主張を繰り返したため、法廷侮辱罪が深刻化したと述べた。また、虚偽主張の流布を阻止する措置を講じなかったことも非難した。
一方で、被告が問題の映画を削除する措置を講じたと裁判所に今後示せば、刑期が4カ月短縮される可能性もあるという。
しかし、「被告は今後、禁止命令に従う意向をまったく示していない。被告の行動はすべて、自分が法より高い位置にあると自認していることをうかがわせる」と、ジョンソン判事は付け加えた。
今回の裁判は、ヤクスリー=レノン被告にとって4回目の法廷侮辱事件だった。同被告は過去に同罪で、執行猶予付き判決や6カ月の実刑判決を受けている。
同被告はまた、今年7月に英仏海峡に臨むフォークストン港でテロ対策法に基づき警察の職務質問を受けたものの、携帯電話のロック解除に応じなかったため、別途起訴されている。この罪状については、11月に出廷する予定。
「トミー・ロビンソン」とは
「トミー・ロビンソン」の名で知られるヤクスリー=レノン被告は、2009年に「イスラム過激主義に対抗する」として極右政治団体「イングランド防衛同盟(EDL)」を創設。デモや抗議行動を展開し、人種差別に抗議する様々な団体と衝突を繰り返した。2013年にはEDLを離れたが、その後も、各国の反イスラム団体や極右団体と連携し、警察や主要メディアがムスリムやアジア人による犯罪を見逃していると主張し続けている。
2018年末までには、ヘイト(憎悪)スピーチに関する規約違反を理由にYouTubeを初め、ほとんどのソーシャルメディアから追放されていた。しかしX(旧ツイッター)では、同プラットフォームを所有するイーロン・マスク氏が昨年11月にアカウントを復活させている。
今年7月の英サウスポートで起きた刃物刺傷事件をきっかけとした騒乱では、何千人ものフォロワーに対し扇動的なメッセージを投稿していた。