11月の米大統領選の民主党候補カマラ・ハリス副大統領は29日、ホワイトハウス近くのエリプス公園で支持者集会を開いた。この公園は、2021年1月6日に共和党のドナルド・トランプ候補が支持者を前に演説した場所で、トランプ氏の支持者たちはその後連邦議会を襲撃した。
トランプ候補は当時、「みんなでペンシルヴェニア通りを歩いて(略)連邦議会に向かうぞ」などと支持者に語った。
トランプ候補の支持者たちはこの後、2020年大統領選でのジョー・バイデン氏の勝利を認定する作業を妨害しようと、連邦議会議事堂を襲撃した。
ハリス氏の集会が同じ公園でこの日に開かれたのは偶然ではなかった。あの寒い、暴力的な日とは対照的なイベントになることをハリス陣営は期待していた。同陣営によると、この日の集会には推定7万人の支持者が集まった。
「私たちはドナルド・トランプがどういう人か知っている」とハリス氏は語った。
「4年近く前、まさにこの場所に立ち、自由で公正な選挙における民意をくつがえそうと、武装した暴徒を連邦議会議事堂に送り込んだ人物なのだと」
ハリス氏が目指す「別の道」
ハリス氏は演説の冒頭、「不安定」で「錯乱した」トランプ候補は「復讐(ふくしゅう)に執着している」と語った。その後は、自身が「別の道」とするものに焦点を当てた演説となった。
ハリス氏は7月のバイデン氏の選挙戦撤退を受け、8月に民主党の大統領候補に正式に指名された。自身の選挙活動期間が短く、アメリカの有権者たちは自分のことを「まだ知ろうとしている」段階にあることをハリス氏は認め、これまでの経歴と生い立ちに言及した。
さらに、住宅費の引き下げや児童税額控除の拡大、政府が提供する高齢者向け健康保険への在宅介護保障の追加など、自身が掲げる重要政策のいくつかについても語った。
人工妊娠中絶の権利を規定する法律の制定の必要性などについても、さらに時間を割いて語った。
この日の演説内容は実質的に、8月の民主党全国党大会での自身の演説を縮めたものだった。
党大会のころの民主党は再び勢いを取り戻していた。数週間にわたる落胆や内紛を経てバイデン氏が選挙選から撤退し、新たな大統領候補が登場したからだ。
それ以降のハリス氏の選挙選は山あり谷ありだった。そして今では、来週に迫る本選がきわどい勝負になるのは間違いなさそうだ。
世論調査が正確であれば、ハリス氏にはまだ、今もどちらの候補に投票するか決めかねている有権者の支持を得るためにやるべきことが残っている。今回の演説は、背後にホワイトハウスがそびえ立つ、人目を引く舞台での最後の、そして最大限の努力だった。
ハリス陣営が投票当日に有権者に念頭に置いてもらいたいと考えているのは、分断か団結か、苦しみか希望か、特定の党派に偏るか協調か、過去か未来か、という対比のメッセージのようだ。
「私は皆さんの生活をより良くするために、共通の基盤と常識的な解決策を模索することを誓う」とハリス候補は語った。「私は政治的な得点を稼ごうとしているわけではない。私が目指しているのは進歩だ」。
ただ、彼女が目指すものには困難が伴うかもしれない。
バイデン現大統領はこの日、トランプ候補の支持者を「ごみ」と呼んだとされる。事の発端は、27日にトランプ候補の支持者集会で、前座として登壇したコメディアン、トニー・ヒンチクリフ氏がプエルトリコを「海に浮かぶごみの島」と呼んだことだ。米領プエルトリコに住むプエルトリコ人はアメリカ大統領選で投票することはできないが、アメリカ国内に住むプエルトリコ人は大勢おり、選挙権をもつ。
バイデン氏は後に、自身の「ごみ」発言はトランプ氏支持者に対してではなく、コメディアンのコメントに対するものだと主張した。ただ、バイデン氏の発言を捉えた動画は不明瞭なものしかなく、この発言は同日のハリス氏の集会から人々の気をそらす出来事となってしまった。
ハリス氏が乗り越えなければならないものはほかにもある。経済と移民に関する国民の懸念を和らげる必要がある。これらの政策については、トランプ候補が優勢であることが世論調査で示されている。
ハリス氏の集会会場の外では、パレスチナ・ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスによる戦争に反対する親パレスチナ派が集まり、「ジェノサイド(集団虐殺)支持者には投票しない」などと書かれたメッセージを掲げて抗議した。
アメリカは同盟国としてイスラエルを支援している。しかし今月には、ガザ地区の人道状況を改善させなければ対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると、イスラエル側に伝えていたことが明らかになった。
ハリス氏も、ガザでの人的被害の大きさについて強い表現で問題視している。
トランプ候補は、イスラエルの戦争遂行方法に批判的な時期もあったが、イスラエルの支持者だと自認している。
(英語記事 Harris pledges 'different path' at site of Trump 6 January rally)