カナダのジャスティン・トルドー首相(53)が6日、与党・自由党の党首と首相の職を辞任すると表明した。9年間にわたって国を率いてきたが、退陣を求める声が与党内で大きくなっていた。
トルドー氏は記者会見で、「党がしっかりした全国的な競争手続きを通じて次の党首を決めたのち、党首として、首相として、辞任する」と表明した。
「この国は次の選挙で真の選択が必要だ。私が党内抗争を戦わざるを得ない事態になっているなら、それはつまり、私が最良の選択肢ではないということなのだろう。そのことが、はっきりした」と説明た。
首相は、新党首が決まるまで首相としてとどまり、3月24日までは連邦議会を休会にする方針という。
トルドー氏は国内で不人気で、10月20日までに実施される連邦選挙を控えた自由党にとって足かせになっていた。
自由党幹部のサチット・メーラ氏は、週内に党役員会を開き、新党首選出に向けて動き出すとする声明を発表。「全国の自由党員は、ジャスティン・トルドーが10年以上にわたって党と国に対してリーダーシップを発揮してくれたことに計り知れない感謝の念を抱いている」とした。
また、「首相として、彼のビジョンはカナダ国民に変革的な進歩をもたらした」と評価。児童手当や、歯科医療や一部の処方薬に対する保険適用などを実績として挙げた。
一方、野党・保守党のピエール・ポワリエーヴル党首は、トルドー氏の辞意表明を受け、「何も変わっていない」とソーシャルメディア「X」に投稿。「自由党の議員や党首候補は全員、トルドーのしたこと全てを9年間支持した。そして今、自由党の顔をすげ替えて有権者をだまし、また4年間、カナダ国民にたかり続けようとしている。ジャスティンと同じように」と書いた。
トランプ氏の圧力
トルドー氏については、年内の連邦選挙を前に辞任を求める声が党内で膨らんでいた。長年の盟友だったクリスティア・フリーランド副首相が先月、突然辞任すると、圧力は一層強まった。
フリーランド氏は辞表の中で、アメリカのドナルド・トランプ次期大統領がカナダ製品に関税をかけると脅していることに触れ、トルドー氏が「重大な課題」に十分に対処していないと非難した。
トランプ氏は、カナダからの輸入品に25%の関税を課すと宣言している。経済の専門家らは、カナダがアメリカとの国境の警備を強化しない限り、カナダ経済に大きな打撃となると警告している。
カナダ政府はこの脅威に対応するため、抜本的な新しい警備策を国境に沿って実施すると発表している。
トランプ氏はトルドー氏の辞任表明を受け、関税をめぐる圧力が原因になったとインターネットに投稿。カナダはアメリカの「51番目の州」になるべきだと、改めてからかった。
そして、「カナダがアメリカと合併すれば、関税はなくなり、税金は大幅に下がり、常に取り囲まれているロシアと中国の船の脅威から完全に安全になる」とした。
自由党は2019年から、少数政党として政権を担っている。
フリーランド副首相の辞任後、トルドー首相はそれまで自由党を支えていた中道左派・新民主党や、ケベック地域の権益を代表するブロック・ケベコワ(ケベック連合)の支持を失った。
ここ数カ月の世論調査では、最大野党の保守党が自由党に2桁のリードを保っている。仮に総選挙がすぐに行われれば、自由党は大敗する可能性がある。
トルドー時代の終わり
トルドー氏は、1970年代から80年代にかけてカナダの首相を務めた故ピエール・トルドー氏の息子。
2015年の総選挙で、新しい進歩的な時代を切り開くとの公約を掲げた自由党が大勝したのを受け、首相に就任した。
実績には、内閣の男女平等(現在も半数は女性)、先住民族との和解の進展、連邦炭素税の導入、非課税児童手当の実施、娯楽用大麻の合法化などがある。
近年はトルドー政権をめぐって雲行きが怪しくなっていた。汚職容疑がかけられているカナダ企業との取引が問題視されたり、肌の色を濃くする化粧をした写真が出回ったりするなど、自分の責任とも言えるスキャンダルが相次いだ。
新型コロナウイルスのワクチン接種の義務化なども、国民の一部の激しい反発を招いた。2022年初めには「自由の車列(フリーダム・コンヴォイ)」と呼ばれる多数のトラックによる抗議行動に発展。トルドー氏は結局、前例のない緊急権限を使ってデモ隊を排除した。
カナダがパンデミックから脱却し始めると、住宅と食品の価格が急上昇した。移民をめぐっては野心的な受け入れ目標を掲げていたが、公共サービスに負担がかかり出すと、政府はこれを撤回した。
昨年後半には、トルドー氏の支持率は過去最低に下がった。同氏が良い仕事をしていると答えた国民はわずか22%という世論調査もあった。
辞任表明を受け、オタワの国会議事堂の前では、トルドー政権に抗議する少人数のグループが踊って喜んだ。
一方、議事堂前を通りかかった、ブリティッシュコロンビア州出身の大工ハメス・ガマーラ氏は、トルドー政権で物事はうまくいっていたと思うとコメント。「仕事をし、給料をもらい、請求が来たら支払いをする。問題なかった」とBBCに話した。
マリース・カシヴィ氏は、一つの時代の終わりのように感じると述べた。悲しさはあるかとの問いには、「ない。これは正しいことだ」と答えた。
(英語記事 Canada's Justin Trudeau cites 'internal battles' as he ends nine-year run)