2026年9月30日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年9月30日

 中国の外交攻勢にとって、近年のトランプ政権による米国自身の同盟ネットワークの弱体化は、またとない機会となっている。同盟は単なる軍事能力の集合体ではなく、予測可能性、信頼、そして相互利益への期待によって維持される。

 しかし、同盟の主導国が、その影響力を背景に同盟国に対して関税・通商政策を通じた自己利益の拡大を図ったり、負担の増大を強く求めたりすれば、短期的には米国の利益を高めることができても、中長期的には逆の効果をもたらしかねない。同盟国に米国への過度な依存の危険性を認識させ、結果として同盟そのものを弱体化させる可能性があるからである。

 米国が同盟を国際的な「公共財」として提供することよりも、短期的な取引上の利益を確保するための圧力手段として利用することを優先すれば、同盟国は必然的に米国への依存を減らそうとする。その結果、欧州やアジアにおける域内協力を強化するとともに、中国を含む複数の国との関係を強め、外交・経済関係を多角化するインセンティブが高まることになる。

中国の狙いとその課題

 一方、中国は自らの外交攻勢について、「反米同盟」の形成でも、他国を中国に従属させるための枠組みでもないと説明している。しかし、その背後には、中国の戦略的意図に対する各国の警戒や疑念を和らげながら、中国との経済・外交関係を強化するよう促す狙いがあると考えられる。

 中国は、米国中心の国際秩序を正面から打ち破ろうとするのではなく、その結びつきを時間かけて徐々に弱め、中国にとってより有利で安定した国際関係の構造を構築しようとしているように見える。

 さらに中国は、国連などの既存の国際機関において、グローバル・サウスの多数派を取り込み、自国の主張を「中国固有の利益」ではなく、「発展途上国の利益を代表するもの」として提示してきた。この手法には、軍事同盟を形成するよりもはるかに低いコストで、多数の国から外交的支持を獲得できるという利点がある。

 中国の狙いを理解する上で重要なのは、単に「米国を上回る軍事力を獲得すること」ではない。むしろ中国は、制度、経済、外交の各分野でネットワークを拡大し、米国中心の国際社会に中国を中心とする代替的な結節点を増やそうとしている。そうすることによって、国際秩序の方向性を米国だけでは決定できない構造へと変え、中国の主張を国際社会に浸透させるとともに、中国外交をより有利に展開できる環境を作ろうとしているのである。


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