この夏、養老孟司さんと本を出した。『虫とマンガと日本人』(PHP研究所)。日本が世界に誇る最大の産業、それはキャラクタービジネスだ。なぜ、魅力的なキャラクターが日本で生まれ続けるのか。
川のつくった流域で山と平地と海がコンパクトにつながっている火山国・日本の地形は、多種多様な生態系を生んだ。そこで暮らす日本人は古代から昆虫をはじめ「生き物をきめ細かく見極める」術を文化的に身につけてきた。その文化が多種多様なキャラクターを生むベースになっているのでは、という仮説を立ててみた本である。
重要なのは、日本人の自然に対する感覚の開き方が並じゃない、ということだ。視覚だけじゃない。聴覚も、だ。私たちは自然の音を、当たり前のように、非常に細かく聴き分けている。
今回は「耳」で旅しよう。日本人は、春から晩秋まで虫の音を聴き分けている。
春先、道端の藪からジーッという鳴き声がする。薄緑の体に紅い牙を持ったキリギリスの仲間、クビキリギスだ。噛み付くと首が切れても離さないことからこの名がついた。
6月末、梅雨が本降りになる頃「チイー」と木立から落ちてくるのは、ニイニイゼミの声だ。7月に入ると、近所の神社の杉の木にとまったヒグラシがカナカナカナと切ない鳴き声をあげる。次いでミンミンゼミの声がやかましくなり、梅雨が明ければ本来は南方種であるクマゼミのシャンシャンシャンというやかましい鳴き声で目が覚め、午後にはアブラゼミがジイジイと合唱し始める。
8月に入るとツクツクボウシのお出ましだ。草むらではカネタタキがチンチンチンと小さな鉦を叩くように鳴きはじめ、夜になればスズムシがリーンとさえずる。9月。梢からアオマツムシがリーリーリーと金属音を降らし、路地の隙間ではエンマコオロギがコロコロリと音を転がす。
