ステージ4の癌とは、実に厄介なものである。私はこれまで5回の手術を受けた。大腸、肝臓、左右の肺……。
そのたびに「これで卒業だ」と思う。ところが数か月すると、CT画像に小さな影が映る。
「こりゃいかん」
まるで、卒業式が終わったと思ったら、「追試があります」と先生に呼び止められるようなものである。どうやらステージ4の癌には卒業証書がないらしい。
だから私は最近、この治療を「マラソン治療」と呼ぶようになった。100メートル走なら全力疾走でよい。しかしマラソンは違う。速く走る人より、途中で棄権しない人の方が強い。人生も同じだと思う。
健康法は、知っているだけでは効かない
健康法は誰でも知っている。よく眠りなさい。歩きなさい。食べ過ぎるな。タンパク質を摂りなさい。血糖値を管理しなさい。
どれも正しい。
問題は、知っていることではない。忘れることなのである。私は世界中の鉱山を歩いてきた。鉱山では「今日はヘルメットを忘れました」では済まない。だから現場では必ず指差し確認をする。
ところが自分の健康になると、
「今日は歩かなくてもいいか」
「今日は一杯くらい大丈夫だろう」
「明日から頑張ろう」
……と、途端に自分に甘くなる。
人間という生き物は、他人には厳しく、自分には実に優しい。その代表が、私である。
だから手のひらに健康をインストールした
ある日、私は考えた。健康法を忘れない方法はないだろうか。スマートフォンのアプリも試した。手帳にも書いた。しかし、手帳は机の上に置きっぱなしになる。スマホは健康管理を開く前にニュースを見てしまう。
結局、一番よく見るのは自分の手だった。
「それなら、手に覚えさせればいい」
こうして「手のひら健康法」が誕生した。
親指──血糖を整える
親指は「いいね!」の指である。食事の前に親指を見る。
「今日は本当に、その大盛りに“いいね!”なのか?」
親指は何もしゃべらない。だが、だいたい正しい。
人差し指──よく眠る
人差し指は、
「これが一番大事」
と教えてくれる指だ。
夜更かししようとすると、心の中の人差し指がこう言う。
「その動画、本当に今見なければならないのか?」
たいてい翌朝には、
「見なくてもよかった」
という結論になる。
中指──毎日歩く
一番長い指だから歩く担当。理由はそれだけである。最近、1万歩神話も少し見直されてきた。私は3000歩でも5000歩でも十分だと思っている。
大切なのは、昨日より今日も歩くことである。散歩は無料である。だから人は価値を忘れる。もし1回3000円払う散歩があれば、みんな毎日歩くかもしれない。
薬指──良質な栄養
薬指は身体との契約書である。魚も食べる。肉も食べる。卵も食べる。豆腐も納豆も食べる。筋肉も免疫も、材料がなければ建たない。
建設会社を経営していた友人が、
「材料をケチると家は長持ちしない」
と言っていた。人間もまったく同じだ。
小指──腹六分目
小指は控えめである。だから食事も控えめでいい。問題は「あと一口」である。人間は不思議なことに、
「あと一口」
を10回くらい繰り返せる。だから私は、小指を見る。
「その一口、本当に必要か?」
すると少しだけ理性が勝つ。少しだけで十分である。
