米国の外交・防衛政策に及ぼした影響は、さらに深刻なものであった。大量破壊兵器をめぐる誤った前提に基づいてイラク侵攻を決定したことは、同盟国の信頼と、自国政府に対する米国国民の信用の双方を損なう結果となった。その一方で、中東への過度な注力は、21世紀における最も重要な外交課題である「中国の台頭」から我々の目を逸らさせることになった。
政策立案者たちは、米国の製造業の各部門(家具や繊維など)を疲弊させた中国製品の大量流入や、新興の情報経済において主導権を握ろうとする中国の計画、あるいは軍事力増強(とりわけ海軍力の強化)といった事態に十分な注意を払ってこなかった。
イランとの開戦に踏み切ったトランプ政権の誤った判断は、こうした歪みをさらに悪化させた。米国が容認可能な条件でホルムズ海峡の通航を再開させようと苦闘する中、中国指導部は中央アジアや中東の各国政府との関係強化に奔走しつつ、米国の同盟国であるアジア諸国(特に日本やフィリピン)を威嚇している。空母を含む米海軍の戦力の多くが東アジアから中東へ再配置された今、我々は中国がこの機に乗じて台湾に対して行動を起こさないことを願うほかない状況に置かれている。
軌道を変えない限り、国内の状況も国際的な地位も、ともに弱体化の一途をたどるだろう。今こそ、米国外交における「9.11」以来25年続いた時代に終止符を打ち、今後四半世紀にわたる核心的な課題に対処すべく、経済・外交・軍事の各リソースのバランスを再構築すべき時である。
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米国が重ねた失敗
筆者のガルストンは、ブルッキングス研究所のフェローでもある。上記の論説では、9.11自体の衝撃よりも、その後の一連の誤りの積み重ねが米国の衰退を加速させた主因であると総括し、特に中東に過剰に集中した結果、中国の台頭への対応が遅れており、政策の再構築が不可欠であることを指摘している。
極めて説得力のある分析と議論である。単なる失敗批判を超え、戦略的な自己反省を促す論説として意義がある。どのように、米国が失敗を重ねたか、この論説を補完して改めて整理してみたい。
当時、既にビンラディンらの存在が米国当局に認識されていたにもかかわらず、9.11のようなテロ事件を予期せず、防げなかったことが、ブッシュ(子)大統領によるアフガニスタンに対する過激な対応や、イラクの大量破壊兵器疑惑に対する過剰な対応に踏み切り、中東の泥沼にはまって行くこととなった。国内の民意の盛り上がりを背景に体制が転換した旧共産圏とは異なり、アフガニスタンやイラクなどで外部からの介入により民主主義的政権を構築することは、はるかに困難であり、結果的にはテロリスト側の挑発に乗せられた感がある。
教訓としては、インテリジェンス機能の強化とアラブやイスラム社会の構造や歴史的背景を十分考慮した上での戦略的対応が必要であったと思われる。
当時の米政権は、90年代の冷戦の終了と湾岸戦争の勝利により、自信過剰の状態にあったのであろう。2000年前後より、民主主義の拡大を目指し、テロとの戦いや核不拡散のためには先制攻撃も単独行動も辞さないいわゆる共和党のネオコンが外交を主導し、民主党のリベラル国際派もこれに共鳴し、コソボやリビアなどへの積極的な介入も行われた。
