■今回の一冊■
HOW THE MIGHTY FALL
著者Jim Collins, 出版HarperCollins, $23.99
世界的なベストセラー「ビジョナリーカンパニー」(94年、原題はBuilt to Last)の著者、経営学者ジム・コリンズの最新作だ。タイトルを直訳すると「強者はいかにして没落するのか」――。
ウォールストリート・ジャーナル
週間ベストセラーランキング・ビジネス書部門
3週連続ベスト5
「ビジョナリーカンパニー」では時代を超えて永続する偉大な会社の秘密に迫ったコリンズが本書では逆に、栄光を極めた優れた会社でも時に駄目になってしまうのはなぜかというテーマに挑んだ。2008年にウォール街の名門投資銀行が破綻するさまを目の当たりにしてきただけに、アメリカ人ならずとも世界中のビジネス関係者が読みたくなるタイムリーな問題設定だ。
アメリカのさまざまな会社の延べ6000年分の財務データを精査したうえで、08年に経営破たんした家電量販店のサーキット・シティや、ハイテク大手のヒューレット・パッカード、半導体大手のモトローラなど計11社のケーススタディをもとに会社の経営が悪化した原因を分析していく(ただし、11社の中には現時点では業績が回復している会社も含む)。ケーススタディではそれぞれ、経営がうまくいった同業のライバル会社との比較を交えながら説明するだけに分かりやすく、説得力が増す。
没落する会社の5段階活用
まず、コリンズは会社が没落するときには、5つの段階を経るというモデルを提示する。会社の成功によって傲慢さが生まれるのがステージ1、やみくもな拡大戦略に走るのがステージ2、リスクに鈍感になりリスクをとりすぎるのがステージ3、手っ取り早い解決策に飛びつこうとするのがステージ4、そして、すがった解決策が失敗して大きな痛手を負い破滅に至るのがステージ5だという。
1970年代から急成長してきた家電量販店のサーキット・シティは90年代に入り、新たな成長市場を求めて中古車市場などに進出、結果的にその後は業績が悪化して、08年11月に実質的に倒産した。サーキット・シティの業績が悪化するなか、家電量販店として急成長したのが80年代に参入してきたベスト・バイで、顧客サービスを充実していくことで市場シェアを拡大した。
この2社の比較からコリンズは、過去の成功体験があだとなり、新たな事業分野に参入しても成功を疑わない傲慢さが経営者に生じ、会社を駄目にする危険性を指摘する。リスクの高い新規事業に足を踏み入れるよりもまず、これまで成功を収めてきた中核事業を深堀りして一段と強化するほうが有益な場合が多いとコリンズはみる。こうした経営戦略の意義について、次のたとえ話は分かりやすい。