2024年12月18日(水)

Wedge REPORT

2016年7月3日

東日本大震災に遭遇

 材木の種類は横架材では黒松が多く使われ、柱はスギ、壁には明治期の修造と思われるヒノキが主に使われていた。本殿の工事では階隠しの化粧棟木に破損が見つかり、交換修理することになったが、国内の松材は松くい虫の被害で大きな材木は壊滅的な状況だった。唯一大きな松が残っていたのが気温の低い東北地方だったので、大船渡市の製材業者に調達を依頼していた。

 ところが、原木が製材業者に納入されたところで運悪く東日本大震災に遭遇した。家族が津波の被害に遭いながらも、難を逃れた原木を製材業者の努力で自家発電をしながら製材し、停電や道路事情の悪い中で出雲に届けられた。この材料の納入が遅れていたら全体の工程にも影響する綱渡りのような工事日程だっただけに、無事に届いて安堵したという。

緊張の連続

現場監督の金久保主査

 本殿以外の工事では、修理中に発見された墨書などから、最初に建てられた年月が判明、他の建物から転用された部材などから興味深く貴重な建物だと分かることもあった。

 建っている場所が海に近いことから塩害の影響、湿気が多い気候であることからシロアリの被害を受けやすいことも考慮しなければならなかった。被害を防ぐために昔の手法を踏襲しながら防腐・防虫剤などを使用して被害をできるだけ少なくするように工夫した。

 改修工事のために活躍したのが宮大工といわれる職人たちだ。多い時は20人ほどの宮大工が総掛かりで作業に当たった。文化財の修理は定期的に行われるため、保存修理に携わる宮大工の仕事がなくなることはないという。今回は60年に一度の本殿の大改修になったため、中国地方だけでは足りなく全国から宮大工を集めてきた。

 金久保さんはこれまで、文化財や歴史的建造物の修復を手掛けてきた。千葉県下総中山にある法華経寺祖師堂、江戸城清水門、田安門の改修を行い、新築では靖国神社参集殿などを担当した。

 出雲大社は伊勢神宮とともに日本を代表する出雲大社の工事だけに失敗は許されず、文字通り身の引き締まる現場を監督する4年間だったという。それだけに緊張の連続で、調査解体した結果、部材の交換が予想以上に増えるなどして仕事は増加しても工期は変えられないという重圧の中で工程の調整をする毎日だった。こうした努力のかいがあって本殿を含む修理事業と「平成の大遷宮」は期限までに無事完成し、周辺の建て替えや修理、工事は19年まで続く予定。

  
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