2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2016年7月3日

先人の知恵と気概

本殿の檜皮を葺く作業

 本殿の棟や破風板に施されている「チャン塗」と呼ばれる塗料作りには苦労した。材料の配合が難しく、配合レシピが分かるまでに2年も掛かった。配合の良し悪しを暴露試験で試行錯誤しながら研究していたが、決定打が見つけ出せなかった。工期が迫り困っているときに古文書の中に塗料の主成分や、混入する材料の配合の一部が書かれてあるのが見つかり後押しとなった。

 修理にはできるだけ日本古来の材料を使わなければならない。必要に応じて部材の強度や耐久性を増すために鉄骨や補強金具等を使用することもあるが、原則は当時使っていた材料を使うため修復には予想以上の手間が掛かった。

 本殿の屋根は檜皮葺(ひわだぶき)で、約64万枚もの檜皮が使われた。一つの屋根を葺くのにこれだけ大量の檜皮を使う例は少ないという。本殿の場合、長さ90~120センチのヒノキの皮を1枚ごとに10ミリずつずらして重ねて竹の釘で留めて葺いていく工事で、厚さは最大24センチにもなり通常の倍近い厚みになった。これだけの檜皮を寸分の狂いもなく葺いていく作業は最も時間の掛かった工程だった。檜皮の下の野地面には三重の板が仕込まれ、板の継ぎ目は漆素材の刻荢(こくそ)で止水した重厚な構造になっているのが見つかっており、雨漏りなどから本殿を守るためにこれでもかというくらい万全の対策を施している。先人の最大限の知恵や気概が感じられる部分だ。

 本殿正面の階段部分に突き出た庇の階隠し(はしかくし)と呼ばれる勾配のある屋根面でも水の流れる方向に逆らわずに屋根を葺いている。自然に逆らわずに檜皮を使って屋根を葺いているのが大きな特徴だという。

 最近の建築工事では、マンション工事のクイ打ちの偽装や、耐震設計のごまかしなど手抜きが何件も見つかるなど、信頼できない工事が相次いで表面化して大きな問題になった。完璧な工事を追求してきた先人達から見れば、あり得ないことであったに違いない。


新着記事

»もっと見る