新しい価値やビジョンを広げていきたい
佐藤も私も、デザインやクリエイティブのパワーを信じています。ですから、サムライでお引き受けする数々のプロジェクトも、単に商品が売れればいいというより、クライアントがそのプロジェクトを通してなさろうとしていること、新しい価値やビジョンなどを社会に提示していこうとすることのお手伝いができればと思っているのです。
先に申しました通り、もともと佐藤可士和は、博報堂で広告制作の仕事に携わっていました。1999年にキリンビバレッジより「キリンレモンのリニューアルを商品開発から依頼したい」と佐藤に指名でお声をかけていただき、商品コンセプトの設計から、味のディレクション、通常より小さなペットボトルのパッケージデザインや、「チビレモンくん」というキャラクターの開発、そして広告戦略まで一気通貫でトータルに関わる機会に恵まれたことで、広告だけでなく、もっと根幹から企業のコミュニケーション活動に関わることによって大きく広がるクリエイティブの可能性を再認識し、広告代理店を辞めて独立する決意をしました。今では、広告代理店が商品開発から参画することも珍しくありませんが、2000年当時は、博報堂という会社の枠の中にいるよりも独立したほうが、クリエイティブの力を通して社会に新しい価値を提示していきたいという自分のやりたいことがより実現しやすい環境だったのです。
SAMURAIの可能性が広がればいい
私自身は、2001年からサムライでマネジメントとプロデュースを担当しています。広告代理店の方が介在して下さる仕事についてはスケジュール管理ぐらいですが、クライアント直の仕事では、何かお問い合わせをいただくと、まず最初に私がお目にかかってご依頼内容をおうかがいしています。そのプロジェクトの具体的な内容や諸条件をはじめ、クライアントの目指すビジョンや方向性をお聞きして、それを共有できるかどうかを慎重に見極めます。
このときの“見極め”は、とても大切な私の仕事のひとつで、本質的なところで目指す方向性が共有できなければ、その後のプロジェクトの生産性は上がらず、結果的に双方が納得するクオリティで仕事を全うすることは難しいでしょう。トラブルを回避して佐藤が最高のパフォーマンスを発揮し、クライアントが満足するような結果を出しながら、社会に対して何らかのインパクトを残すような仕事をするには、やはり初期設定が非常に重要で、そこは私にとって真剣勝負です。
よくこういった質問をいただくことがあります。
「ビジネスパートナーとして本当にふさわしいかどうかが、いったいどうやって話しただけでわかるのですか?」と。
答えは、「真摯に向き合えばわかる」ではないかと思います。
自分が本当に真剣に相手と対峙して対話をすれば、伝わってくるものや見えてくる情報はたくさんあると感じています。もしもそれでも「何もわからない」というのであれば、それは頭と心がそこにないからか、よほど相手との相性がよくないのではないでしょうか? 真剣に自分の仕事の目標や目的を相手とすり合わせようと思って臨めば、その相手との何らかの接点は自然に見いだせるのではないかと思うのです。