2024年12月20日(金)

金融万事 塞翁が馬

2016年6月10日

 世界主要19カ国における外国公務員の汚職に関する法執行件数は、1977~2015年(38年間)合計で287件だが、その51%(146件)は直近5年、または82%(235件)は直近10年以内だ。2015年12月時点、主要27カ国では新たな捜査案件が合計251件(注1)もあり、経費、交際費、そして金品・物品の授受に対する厳しい管理が求められる。

 日本では1998年に ‘外国公務員への贈賄行為に対する刑事罰’ が不正競争防止法に導入されたが、摘発は4件に留まっている。ただ、(字数の関係上詳しい説明は控えるが)たとえ日本企業であっても多くが様々な理由でFCPAやUKBAの適用範囲にあり、罰則が科せられている日本企業(又は非米英企業)も年々増加している。

‘マネーロンダリングとテロ資金供与’ 対策が
世界中で強化

 AML(Anti-Money Laundering;資金洗浄対策)とCFT(Combating the Financing of Terrorism;テロ資金供与対策)については、1989年に設置された政府間機関である金融活動作業部会(FATF: Financial Action Task force on Money Laundering)が2012年2月に『国際的なマネーロンダリング・テロ資金供与対策の遵守の改善:継続プロセス(通称FATF勧告)』を公表し、OECD加盟国を中心に世界34ヶ国・地域及び2つの国際機関が積極的に取り組んでいる。

 近年の AML/CFTでは、金融機関における口座開設や取引におけるPEPs(Politically Exposed Persons; 重要な公的地位を有する者)と実質的支配者の確認が肝となる。

 冒頭でも挙げたマレーシア政府系投資会社「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」とナジブ首相を巡る疑惑では、1MDBとの関係を疑われたプライベートバンクの口座が凍結され、先月シンガポール通貨庁(MAS)はスイス・プライベートバンクBSIのシンガポール部門に業務閉鎖を命じた。マレーシア国内ではマハティール元首相らから訴訟を起こされ、国外では米国・英国・スイス・ルクセンブルグ・フランス・シンガポール・香港と捜査網が広まり疑惑は依然として収まる気配がない。

 米国では最近、財務省が実質的支配者に関する情報の把握と報告を強化する銀行秘密法改正案を連邦議会下院に提出している。また、透明性の向上を求められているのは金融取引のみに限られない。英国やオーストラリアでは不動産所有や企業の所有に関して実質的な支配状況の把握と報告が強化されている。

 先述のFATF勧告以降、マネロンやテロ資金供与リスクは ”AML指数” として各国定量的に評価、ランキング(注2)されているが、2015年時点、日本はAML指数が5.80(0が最低リスク、10が最高リスク)で、世界152カ国中76番目にリスクが高い、と見られている。

 充分な水準かどうかの判断は難しいが、例えばマレーシアのナジブ首相/1MDB問題で挙がっている国々、スイス 5.51(88番)、シンガポール 4.91(116番)、ルクセンブルグ 5.93(71番)、そしてフランス4.79(124番)等と比較しても、日本がほぼ同じ、またはより高いリスクにある事が分かる。日本では2016年10月より改正犯罪収益移転防止法が施行されるが、金融界ではAML/CFT強化に対する積極的な参加が幅広く望まれる。


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