2024年11月17日(日)

金融万事 塞翁が馬

2016年6月10日

 リチャード・ニクソン大統領(当時)を辞任に追い込み、1970年代のアメリカを揺るがしたウォーター・ゲート事件。当時の連邦捜査局(FBI)副長官であり、ワシントン・ポスト紙の匿名情報源 ”ディープ・スロート” だったマーク・フェルト氏は “Follow the money” (金を辿れ)と言った。

 国際サッカー連盟(FIFA)理事による汚職、マレーシア政府系投資会社とナジブ首相を巡る疑惑、世界の権力者や著名人らの蓄財と租税回避を暴露した「パナマ文書」、そして2020年東京五輪招致活動における贈賄疑惑。近年、金に絡む不正や犯罪が世界中で大きく取り上げられ、報道件数も増加している。なぜか?

資金洗浄は年2兆ドル!(iStock)

 世界銀行による企業調査(135カ国)では、2010~2016年の間に贈収賄に相当する要求が一度でもあったという企業は17.6%にも及ぶ。また、マネーロンダリング(資金洗浄)されている金額は年間8000億~2兆ドルともいわれ、世界GDPの2-5%に相当する(国連薬物犯罪事務所推計)。

 金に絡んだ不正・犯罪行為の総件数はさておき、当局による捜査の結果が明るみに出ているケースが毎年増えている。背景にはガバナンス・リスク・コンプライアンス分野における3つの潮流が複雑に交差している。

グローバルな贈収賄捜査の強化と広まり

 贈収賄やその疑いで数億円~数千億円規模の罰金や禁固刑を受けている企業が世界中で後を絶たない。厳しい罰則で知られている法律に、1977年制定の米・海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act, 通称 “FCPA”)や2010年制定の英・贈収賄法(Bribery Act, 通称 “UKBA”)等があるが、近年その執行が積極化している。

 米国司法省は贈収賄等の腐敗行為を「テロの温床」とし、国家最重要案件である「テロとの戦い」に結びつけている。2010年1月にはFBI捜査員がアフリカの某国家の防衛大臣を装い、おとり捜査で合計22人を逮捕(FCPA摘発)した。捜査の過程や証拠欠落等の問題で公訴棄却となっているが、司法当局が ”おとり捜査“ という積極的な手段を選んでまで贈収賄の検挙にあたっているのだ。


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