個人の財産を寄付して作られた設備やプログラムには、その個人の名前が冠されることが多い。ところが、このプロジェクトではチャオさんの個人名は一切冠されていない。運営団体も「百賢亜洲研究院」という名前で、自らは名誉理事長に就任しているだけだ。「名前を付けないというのが私たちの考え方です」とチャオさんは言う。
というのも、ひとりの力だけではなく、「アジアの未来のリーダーを作る」という理念に賛同する多くの人たちに参画してもらいたいと考えているからだ。多くの人たちが参画したきちんとした組織体にすれば、プロジェクトを永続させていくことが可能になる。
百賢亜洲研究院の理事長はチャオさんの長女であるロナ・チャオ(曹恵婷)さんが就いているが、理事には外部の人たちが名前を連ね、香港で成功した日本人実業家の名前もある。香港を拠点に「アンテプリマ」などを手掛ける荻野正明・フェニックスグループホールディングス・チェアマンや、高級自動車イタリアフェラーリの日本総代理店などを展開するコーンズ・アンド・カンパニーの渡伸一郎会長である。
1億米ドルの基金があるといっても、低金利の中で奨学金運営は十分にできるのか。理事長のロナさんは言う。
「本来は7%の運用益を上げて、5%を奨学金運営に使い、2%は基金に残すという構図を考えていますが、実際には低金利でそこまでの運用益は上がっていません。昨年は2・5%ほどでした。いま、運用戦略の見直しを考えているところです」という。
100人の奨学生に2万5000米ドルを給付するだけでも250万米ドルが必要になる。当然、研究院の運営費用もかかる。他の財界人からの寄付を受けるなど、基金の規模を大きくすることも課題だ。
未来のアジアのリーダーに必要な資質
チャオさんが長年の交流で培った人脈もフル稼働している。柳井氏だけでなく、協力する日本の財界人がたくさんいるのだ。
百賢亜洲研究院の諮問委員会には、麻生泰・麻生セメント会長や渡文明・JXホールディングス名誉顧問、松下正幸・パナソニック副会長らが名前を連ねる。