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世界の記述

2017年5月22日

 カリスマ性の強いほら吹き部長と、卑屈でパッとしないゴマスリ課長。どちらの上司がマシか、独裁者ならどちらが厄介か。あくまでもイメージとして日本の歴代首相を挙げれば、田中角栄氏か竹下登氏か、といったところだ。明らかな後者タイプ、マドゥロ大統領の「独裁」が続くベネズエラの国民からは、まだ前者、故チャベス前大統領の方がマシだったという声が聞かれる。
 
 チャベス氏が1999年に南米最大の産油国で始めた左翼実験、通称「ボリーバル革命政権」はチャベス氏の死によりその子分、元バス運転手、労組員から成り上がったマドゥロ現大統領が2014年4月に引き継いだ。

 チャベス氏に比べ、演説も下手で人間的魅力の薄いマドゥロ氏になれば、独裁性は軟化するとの期待もあったが、暴君ぶりはむしろ悪化している。冒頭のたとえに戻れば、カリスマも実力もない上司ほど人事権を行使したがるサラリーマン社会と同じである。

 15年暮れの国会議員選で野党が一院制議会で多数派を占め、これで大統領も死に体かと一時は報じられた。だが、政権に追従する最高裁は今年3月29日、当選資格が疑わしい議員が出席したのを理由に議会機能を停止するという奇策に出た。名実共に三権分立、民主主義を無効にし、大統領の権限のみを残した形だ。

 これに抗議しチリ、ペルー、コロンビア政府が大使を召喚し、米州機構は「政権による内発型クーデターだ」と非難したが、何の効果もあげていない。

 原油安による国庫の枯渇による超インフレ、食料不足、治安悪化ですでに絶望を通り越した市民たちはそれでも4月以降、首都カラカスを中心に抗議デモを続けている。だが、マドゥロ氏は退陣どころか一向に軟化せず、デモ隊に向け催涙弾をヘリコプターから降り注ぎ、政権が後押しする民兵組織は住民弾圧を強めている。報道制限も年々悪化し、実態はつかめないが、3月以降のデモだけで、死者数は少なくとも30人を超えた。

マドゥロ政権に対する抗議デモを行う人々と治安部隊との衝突(写真・BLOOMBERG/GETTYIMAGES))

 こうした惨状がマドゥロ氏自身の首を絞めている。ここまで死者が増え、彼への憎悪が広がれば、仮に退陣しても他国に亡命しなければ生きながらえない、旧ザイールなど90年代までのアフリカの独裁者と同じ立場に陥っている。

 独裁者はデモでは倒せない。連日の出動など過密業務と、政権に重用される将軍級に比べはるかに安い給与に甘んじる軍人たちによる政権転覆以外に道はない、との見方が強まっている。だが、そこに至るまで、デモや飢え、住民同士の暴力による死者がどれほど重なるのか。

  
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◆Wedge2017年6月号より

 

 


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